管理人の日記 〜2003年9月〜先月日記トップ翌月
9月15日(月) ヘラクレスから執金剛神へ 〜東博特別展「アレクサンドロス大王と東西文明の交流展」〜

 アートや、それを包み込むミュージアム空間でボーっと何かを感じたり、何かを考えたりするのは心地よいことである。できるだけいろいろ見て廻りたいと思っている。しかし、実際問題としてはなかなか行く機会を設けられない。
 最近では、ワタリウム美術館で開催していた「伊東忠太」展を見逃した。会期が長いと安心してぎりぎりまで行かずに、最終日の混雑の中で見るか、結局見られないということは少なくない。同じような理由で、都内各所に美術館はあるものの、これまでに訪れることができたのは僅かである。縄文」をテーマにして制作された作品やワークショップを通して、「縄文」を感じてみようという船橋市飛ノ台史跡公園博物館の企画展「縄文コンテンポラリーアート展」、現在のモノの2000年後の姿をイメージした現代美術と草戸千軒遺跡の資料とを並べた広島県立歴史博物館の「2000年後の冒険ミュージアム」展などは大いに関心があったが行けなかった。
 それに、専攻分野に関わる考古学・歴史学関係のものは別として、アートを感じるには知識は要らない、という考えもあるだろうが、やはり自ら入館料を払って見に行くとなるとそうも言っていられない。美術展を見るたびにもう少し勉強しようと思うのだが、なかなか実行できない。それでも去年はいろいろ見にいたが、今年は卒論や資料整理などのために出歩くことも少ない。

 そんな中、東京国立博物館で開催中の「アレクサンドロス大王と東西文明の交流展」を見に行った。NHKスペシャル「文明の道」を見ている訳ではなく、乏しい世界史の知識では、アレクサンドロスにはあまり興味が無かったため、展覧会の内容を調べたりすることも無く行かないで済ませようと思っていた。しかし、先日放送された「新日曜美術館」を見てにわかに見てみたくなったのだ。
 理由は、風神や仁王、大黒天、毘沙門天など日本の文化と関わっているらしいということ。法隆寺のエンタシスの柱がギリシアの影響を受けているとかいないとかの議論は別にして、ギリシアの神々や、装飾が形を変えながら仏教に取り込まれ、さらに変化しながら日本に至るという。ギリシアの神々などはまったく別な文化として楽しんでいたのに、それが身近な神仏とつながるという話には心引かれる。

 展示は4部構成。まず「第1部:アレクサンドロス大王以前の美術」。ディオニュソスの饗宴やオレイテュイを略奪する風神ボレアスアを描いた陶器、アテナ像など神々の物語や神像が並ぶ。
 次いで「第2部:アレクサンドロス大王の登場とその時代」で、大王の肖像やヘラクレスやアフロディテ、エロス、ヘルメス、ポセイドンなどの神像、コインなどが示される。ヘルメスはローマでメルクリウスと習合している。大理石の像をこれほど見たのは初めてで、他の材質にはない美しさ、力強さを感じた。「ローマ時代模刻」のキャプションが目に付いたが、美術の受容について垣間見ることができ興味深い。その点では多くが部分的に残っているだけなので本来の姿がどうだったのかは気になるところである。
 休憩・お土産コーナーをはさんで、「第3部:東西文明の交流〜ヘレニズムとイラニズム〜」であるが、ここでは西アジア・中央アジアで出土したヘラクレスやアテナなどの神像、アレクサンドロスにならった格好の王をあらわした像やコインからはじまって、仏教的色彩の強いレリーフへと移っていく。問題はこの部分である。本展の核心的部分であるにもかかわらず、私はこの地方の美術については全く知識がない。前に行われていたインド・パキスタン展を見ておけばよかったのか。仏教的図像の中にギリシア系の神々やその変形が指摘されても、見てすぐに分かるようなものは少ない。もちろん、明らかに西の香りと分かるものは見ているだけで面白いし、トロイの木馬と仏陀の出城が融合すると知るのは興味深い。
 最後に、「エピローグ:日本への路」。ここでは、4つの神々の伝播が示される。ヘルメス→毘沙門天・大黒天、ボレアス→風神、ヘラクレス→執金剛神=仁王、テュケ→鬼子母神である。ディオニュソスやアテナ、ポセイドンなどはガンダーラまでだったようである。エロスは有翼の童子として中国まで来た。帰宅して改めて図録を読むとそのほかにもいろいろな神がガンダーラまで伝播したということだ。しかし、会場ではそこまで気づかない。ギリシア神話は有名であるが、やはりなじみは薄く多数の神々が時代・地域毎に出てきてもいちいちその姿を覚えていられない。最後の毘沙門天のところで、それまでに展示されてきた作品の写真を並べて毘沙門天までの系譜が示される。なかなか覚えていない。鬼子母神の元になったテュケってどんな像だったか? いっそ、それぞれの神ごとに変遷系統図のように並べてくれれば分かりやすいだろうに。

 今回の展示はアレクサンドロス大王、ギリシアの神々、ギリシアの神々の仏教との融合と私なりに整理して3つのテーマに分かれてしまう。見にいった動機からして最後のテーマに最も関心を寄せて見たので、東西文明の交流の部分はもう少し分かりやすくしてもらいたかった。また、そのため大王に関しては最終的に殆ど気にとめることができなかった。
 ともあれ、先にあげた身近な神仏の源流やその変化の過程を実際に見てみると、確かにそのような気がしてきて面白い。土地の神々と融合したり取り変わったりしながら、日本までたどり着いた。融合・変革は日本の中でも続く。今回の展示は、ギリシアの神々の子孫たちを追うものであったが、逆に日本の神仏の先祖を辿るたびも面白いだろう。

 解説といえば、今回初めて音声ガイドを使ってみた。必要性は認識していたものの、1回500円という値段が踏みとどまらせていたのだが、前回の建長寺展で試用して良かったことと、図録が300円引き(つまり、図録を買うなら実質200円)であることが理由である。作品につけられている解説パネルよりもはるかに多くの情報が流れいる。作品はチョイスしてあるものの、一作品の情報量は図録の解説と変わらない。また個々の作品の鑑賞時間が格段に増えることもポイントである。東博の特別展では今まで1時間で一回りしてしまっていたところが(その後気になるものをもう一度見る)、今回は1時間ではまわりきれなかった。その分、細部まで見ることができるということである。(03.09.15)

東京国立博物館特別展「アレクサンドロス大王と東西文明の交流展」
NHKスペシャル「文明の道」


9月11日(木) 金子台遺跡出土土器の観察
 卒論用資料見学の一環として、昭和女子大学に保管されている神奈川県大井町金子台遺跡出土品の観察を行った。
 金子台遺跡は、配石遺構の性格を廻って祭祀か墳墓かの二者択一の議論が続いていた頃に赤星直忠氏らによって調査された後期の配石墓を中心とする遺跡である。現在、昭和女子大学で再整理が進められているところである。見学にあたっては小泉玲子助教授のお世話になった。
 一部の配石の下部土坑が調査されており、今回はそこで出土した土器を中心に、小型の土器8点を観察することができた。堀之内2式期から加曽利B式期の小形土器であり、深鉢、壷など器種のバリエーションがある。全体を掘っていないので実態は不明だが、舟形土器や「超小型土器」は出ていない。また、破損率が高いように思う。多摩地域とは異なるのか。これまでに見た王子ノ台・石神台・寺山金目原の資料とも若干異なる。秦野市寺山遺跡の資料は未見だが、西相模地域ではあまり量が出ないのか。まだまだ謎である。(03.09.15)



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