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【1996年】
【『月刊文化財』1996年4月号(通巻391号)より】

埋蔵文化財保護体制の整備充実について(報告)

平成7年12月 埋蔵文化財発掘調査体制等の整備充実に関する調査研究委員会

目 次

はじめに
第1章 埋蔵文化財保護の基本的課題と検討の視点
 1 埋蔵文化財保護の基本的課題
 (1)埋蔵文化財保護の意義と埋蔵文化財保護行政
 (2)開発事業と埋蔵文化財の保護・調整
 (3)今年度の調査研究課題
 2 埋蔵文化財保養体制の検討の視点
 (1)役割分担の明確化と体制整備の推進
 (2)保護体制の人的充実
 (3)調査体制相互間の支援の充実
第2章 埋蔵文化財保護体制の現状と課題
 1 埋蔵文化財保護行政の業務と組織
 (1)地方公共団体における埋蔵文化財保護行政の業務
 (2)業務と組織の開係
 2 都道府県と市町村の調整体制
 (1)都道府県
 (2)市町村
 3 都道府県と市町村の調査体制
 (1)都道府県
 (2)市町村
 (3)広域調査組織
 4 民間調査組織
 5 都道府県と市町村の役割分担と相互支援
 (1)発掘調査における都道府県と市町村の役割分担
 (2)地方公共団体間の相互支援
 6 人材の養成と研修
 (1)大学における教育
 (2)国及び都道府県が実施する養成・研修
 (3)資格制度
第3章 埋蔵文化財保護体制に関する改善方策
 1 国、都道府県、市町村の役割分担と連携強化
 (1)原則的な市町村の役割
 (2)原則的な都道府県の役割
 (3)当面の都道府県と市町村の役割分担
 (4)国の役割
 2 都道府県の調整・指導・調査体制の強化
 (1)適正な職員数の確保
 (2)専門性の高い職員の確保
 (3)人事交流の促進
 (4)調査体制の改善
 3 市町村の調整・調査体制の整備充実
 (1)教育委員会と市町村長部局との理解の確保
 (2)埋蔵文化財担当専門職員の配置の促進
 (3)広域調査組織の検討
 (4)施設の充実
 4 相互支援の推進
 (1)地方公共団体間の人事交流の推進
 (2)地方公共団体問の相互派遣の推進
 5 人材確保と資質の血上
 (1)大学における埋蔵文化財に関する教育の充実
 (2)人材養成を中心とした埋蔵文化財機構設立の検討
 (3)現職研修のシステムの改善と支援
 (4)資格制度の検討
 6 民間活力の適正な活用
 (1)民間調査支援機関の効果的な利用
 (2)民間調査機関の導入
参考資料
 1 調査研究委員等名簿
 2 調査研究委員会等の審議経過
 3 埋蔵文化財保車体制に関する実態調査結果


はじめに

 埋蔵文化財発掘調査体制等の整備充実に関する調査研究委員会(以下「本委員会」という。)は、平成6年10月、近年の各種開発事業の増大に伴う埋蔵文化財発掘調査件数の増加等、埋蔵文化財の発掘調査に関する諸課題に適切に対応するため、埋蔵文化財発掘調査体制等の整備充実について調査研究を行うことを目的として設置された。
 調査研究を進めるに当たっては、各地方公共団体等における実態等を踏まえ、より審議を深めるため、都道府県・市町村教育委員会及びその関係機関の実務担当者からなる協力者会議を設置した。
 本委員会の調査研究課題は
(1)埋蔵文化財発掘調査体制の整備充実
(2)埋蔵文化財発掘調査方法の充実
(3)遺物の整理収納方法等の充実
(4)その他必要な事項
と極めて広範多岐にわたるが、本委員会では、概ね次のように検討項目を整理して調査研究を進めたいと考えている。
(1)埋蔵文化財保護体制の整備
(2)埋蔵文化財包蔵地の周知化と開発事業との調整
(3)発掘調査の方法・期間・費用
(4)出土遺物の取扱いと保管法
(5)その他
 そして、このうち先ず「埋蔵文化財保護体制の整備」に関する課題について、現状及び課題の分析と改善方策の検討を行うこととし、本委員会では地方公共団体及び大学に対して実態調査を実施するとともに開発事業を行う機関や埋蔵又化財の保護団体等からの意見聴取を含め合計6回、協力者会議で4回にわたり会議を開催して論議した結果を、ここに第1次報告として取りまとめた。その他の検討項目についても、今後順次検討を進める予定である。
 本委員会としては、今後、文化庁において、本報告を踏まえ、所要の施策の実施又は検討を進められるように期待するものである。

第1章 埋蔵文化財保護の基本的課蓮と検討の視点

 1 埋蔵文化財保護の基本的課題

(1)埋蔵文化財保護の意義と埋蔵文化財保護行政
 埋蔵文化財は、我が国の歴史や文化の成立ちを理解する上で欠くことのできない豊かな情報を提供する国民共有の貴重な歴史的遺産であり、将来の文化の向上発展の基礎をなすものである。特に、近年の考古学や幅広い関連分野の研究の進展によって、文化や学術の進展に必要な情報資源としての重要性が一層高まっている。また、生涯学習社会の到来が言われるなか、国民の埋蔵文化財に対する興味、関心が大きな高まりをみせている。
 さらに、埋蔵・文化財は、各地域の自然・社会環境の中で先人たちが営んできた生活の直接的な証であり、その地域国有の歴史と文化を物語る遺産である。それらは、地域にとって誇りと愛着をもたらす精神的拠り所であり、個性豊かな地域の歴史・文化環境を形作る重要な要素である。
 このような観点から考えると、埋成文化財保護の推進に当たっては、「文化財は国民共有の財産である」という認識が必要なことはもちろんであるが、それに加えて、文化財が地域固有の財産であるという認識に立って、「地域の文化財は地域で保存し活用する」という理念をこれまで以上に大切にしていくことが必要である。
 したがって、これからの埋蔵文化財保護行政は、埋蔵文化財の保存と活用について広く国民の理解と支援を得ながら、国、都道府県、市町村が適切に役割分担しつつ相互に連携を強化して進める必要がある。また、関係行政との連携協力の下、埋蔵文化財包蔵地の的確な把握と周知、国土開発等現代社会生活との調整、適切な保存措置、発掘調査の適切な実施、発掘成果の活用等の様々な要請に的確に応えられるよう、総合的、体系的に埋蔵文化財保護行政を展開する必要がある。

(2)開発事業と埋蔵文化財の保護・調整
 今日においては、生活の利便性の向上や生活・産業基盤の整備を目指して、道路建設、住宅建設等様々な開発事業が行われている。全国には現在約37万か所の埋蔵文化財包蔵地が周知されており、これらの包蔵地において土木工事等を行う場合はあらかじめ届出又は通知を求め、できる限り現状保存を図るとともに、現状保存できない場合には、発掘調査を実施し、貴重な文化財のもつ情報を記録の形で残している。
 平成6年度についてみると、工事等に伴う届出等が約24,500件、発掘調査の届出等が約9.500件となっており、昭和40年代以来一貫して増加してきている。
 埋蔵文化財は、そもそも地下に埋蔵されているため発掘してみないとその全貌がとらえにくいという性質を有しているので、埋蔵文化財の発掘調査は、一般の建設工事等と異なり、あらかじめ計画化しにくい側面がある。したがって、開発事業と埋蔵文化財保護との調整を円滑に進めるためには、埋蔵文化財保護行政における開発事業との調整の進め方、個々の埋蔵文化財の取扱い内容等について、一層の客観化と標準化を進める必要がある。
 そのため、それぞれの地域において、埋蔵文化財包蔵地の範囲や性格をできる限り正確に把握し、広くその情報を公開するとともに、発掘調査方法の効率化、迅速化、発掘調査期間と費用の算定基準の設定、出土遺物の保管・活用方法の開発等の諸課題に適切に対応することが必要である。

(3)今年度の調査研究課題
 本委員会としては、上記(1)及び(2)で述べた認識に立って、埋蔵文化財保護行政の「総合化、体系化」、「客観化、標準化」を推進するための方策を検討することとし、その根幹となり、基盤を形成する地方公共団体を中心とした埋蔵文化財保護体制の整備充実に関する課題をまず取り上げ、ある程度長期的な展望に立って将来向かうべき方向を明らかにするとともに、具体的な改善策を提言することとした。
 他の課題については、今後順次研究を進め改善策を取りまとめることとしている。

 2 埋蔵文化財保護体制の検討の視点

(1)役割分担の明確化と体制整備の推進
 埋蔵文化財の保護体制は、戦後我が国の急激な経済成長による国土の利用形態の大幅な改変に伴って拡充されてきたものであるため、地域ごとにそれぞれの事情に応じて多様な組織形態を発展させてきた。埋蔵文化財の保護体制の在り方を検討するに際しては、国、都道府県、市町村がそれぞれどのような役割分担を担うべきかを明らかにした上で、それぞれの体制の充実と連携強化を図る必要がある。

(2)保護体制の人的充実
 埋蔵文化財保護体制の充実については、専門的知識をもった人材を確保することが重要である。地方公共団体とその関係機関の埋蔵文化財担当の専門職員は、平成6年度で全国で5,526人配置されている。これは、10年前の昭和59年の約2倍であり、このことから地方公共団体における埋蔵文化財保護体制は、逐次充実が図られてきているといえる。しかし、なお開発事業に伴う発掘調査は急増しており、これらの開発事業に著しい影響を及ばさないようにするためには、さらに市町村を中心にした人的な整備充実が必要である。
 一方、地方公共団体においては、近年、埋蔵文化財担当専門職員に大学で考古学を専門に学んだ経歴のない者を採用する比率が高まる等、適正な人材確保の観点から問題がないとはいえない状況にある。特に、大都市圏以外の市町村では人材難が深刻で、必要な専門職貝を充足できない事態が見受けられる。このため、人材確保についての長期的な方策が必要である。
 さらに、埋蔵文化財担当専門職貝として必要な1埋蔵文化財保護と開発事業との的確な調整、2発掘調査の管理・運営、3発掘調査結果の整理・評価、4発掘成果の活用等についての資質・能力の向上を図る必要がある。

(3)調査体制相互間の支援の充実
 埋蔵文化財の体制整備に当たっての大きな障壁の一つは、発掘調査に関する正確で長期的な事業量の予測が国難である点であり、また一つは、地域によっては一時期に予想をはるかに超える量の発掘調査の集中又は急増により、発掘調査事業量に凹凸が生じることである。そのため、あらかじめ発掘調査事業量を想定してそれに対応できる体制を準備しておくことが極めて困難であり、また、発掘調査事業が集中又は急増した場合に、直ちにこれに対応して専門職員を増員することができず、調査の遅延が生じることとなる。
 それぞれの地方公共団体が、その管下の埋蔵文化財包蔵地の所在状況、規模等に応じ、適正な保護体制を整備するとともに、発掘調査事業量の変化に柔軟に対応できるよう、他の地方公共団体等との間において相互に支援する体制を整えておくことが必要である。

第2章 埋蔵文化財保護体制の現状と課題

 1 埋蔵文化財保護行政の業務と組織

(1)地方公共団体における埋蔵文化財保護行政の業務
 埋蔵文化財保護行政には、おおよそ次のような業務がある。
 調整:埋蔵文化財の所在等の状況把渥、開発事業計画との調整、開発事業に対応する埋蔵文化財の取扱い方針の決定、記録保存等のために行われる発掘調査の管理等を行うこと。なお、都道府県においては市町村に対する指導・支援がこれに加わる。
 調査:遺跡の発掘調査を実施し、その成果をまとめた報告書の作成を行うこと。
 保存・活用:重要な遺跡等の保存・活用を図り、発掘調査成果の公開等を行うこと。

(2)業務と組織の関係
 都道府県では、主に調整業務を行う教育委員会の「文化課」、「文化財保護課」等の文化財主管課(以下「調整組織」という。)と、主に発掘調査等の業務を行う文化財主管課内の調査部門、教育委員会の付属機関及び公益法人の「埋蔵文化財センター」等の組織(以下「調査組織」という。)とに分かれている。保存・活用の業務については、各都道府県の実状に応じて調整組織と調査組織とで分担しながら行っている。市町村にあっては、上記のような業務ごとの組織を分けて整備しているところは少ない。

 2 都道府県と市町村の調整体制

(1)都道府県
 ア 現状
 都道府県の調整業務は、多岐にわたっている。都道府県が調査主体となる埋蔵文化財についての分布・確認調査を含む開発事業との事前調整、調査組織との連絡・調整、管下の市町村への行政的・技術的指導、市町村主体の発掘調査事業への支援、国との連絡・調整、届出等に対する文書処理事務等である。都道府県の調整組織は市町村が行う調整や調査を含めて管内のあらゆる埋蔵文化財の問題について調整し、指導する等、埋蔵文化財保護行政全般の方向を決定する上でもっとも重要な役割を担っている。
 調整組織に配置されている埋蔵文化財担当専門正規職員数は、全国で合計210人であり、調査組織に配置されている職員数を合わせた正規職員数1,861人の11%に当たる。調査組織の形態別に調整組織の職員が占める比率をみると、発掘調査を教育委員会直営の形態で行っている都道府県では14%、公立調査機関の形態で行っている都道府県では7%、公益法人調査機関の形態で行っている都道府県では9%である(複数の調査形態をもつ都道府県は除く。)。
 調整に当たる専門職員には、埋蔵文化財や発掘調査についての専門的な知識と経験が不可欠であり、開発事業者や発掘調査機関に対する適切な指導の能力が必要であるが、現状では、発触調査の経験が十分でない等専門性や指導的能力が不足している者が配置されている場合がみられる。
 また、近年、調査規模の大型化や市町村における調査量の増加により、都道府県が行う調整の業務量は増加傾向にあるが、これに伴う人員の増加が図られていないところが多い。
 発掘調査のための組織として公益法人を設けており、その法人が固有の職員を多く採用している都道府県の場合は、調整組織に配置してその体制の強化を図ることができる人材を有しているにも関わらず、調査組織(公益法人)との人事交流が困難なこともあって、その人材を十分に活用することができない実態がある。
 発掘調査のための公益法人等の独立した調査組織を設けている場合は、それと調査組織との問の連絡・調整や相互理解が不十分となる場合がある。

 イ 課題
(ア)都道府県の調整組織は、自らが行う調整と市町村に対する指導・支援に必要な専門的能力をもった職員を十分に備える必要がある。
(イ)発掘調査のための独立した組織を設けている場合は、それとの連格・調整や相互理解を十分図り、有能な人材の配置を促進するために、人事交流等の方策を講じる必要がある。

(2)市町村
 ア 現状
 市町村の調整組織が担当している業務は、管内の埋蔵文化財の周知徴底、保存・活用、市町村が調査主体となる開発事業に係る事前調整等多岐にわたっている。市町村は、住民と最も密接に関わっている行政機関であり、埋蔵文化財保養をそれぞれの地域で推進する上で重要な役割を担っていることからも、文化財保護と開発事業との調整は市町村が中心となって行うべきであるが、必ずしも十分には行われていない。
 都道府県が行う調整業務は公共事業に関係するものが中心であるのに対し、市町村が行う調整業務は民間事業に関係するものが多く、そのために、発掘調査の必要性や費用負担等について理解を得るのに相当の努力を要する場合が多い。
 埋蔵文化財担当専門職員を配置している市町村は全体の39%であり、専門職員未配置の市町村では基碇的な調整業務を行っていないところも多い。また、埋蔵文化財担当専門職員が配置されていても少人数であるため、都道府県のように調査と調贅の組織が分かれているところは少ない。専門職員未配置の市町村においては、その管下における埋蔵文化財に関する行政を適切に執行することができず、発掘調査を自ら行うことができないことはもとより、他の組織に調査を委託する場合も、これを適正に指導・監督することができないものと考えられる。
 また、発掘調査のための独立した組織を設置している市町村では、都道府県と同様に調整組織が十分機能していない場合や調査組織との相互の連絡・調整が不十分な場合がみられる。

 イ 課題
(ア)埋蔵文化財保護行政における市町村の役割をより明確にし、埋蔵文化財保護体制の整備充実を一層進める必要がある。
(イ)調整は、埋蔵文化財の取扱いを決定する重要な業務であるから、これを適切に行うため、専門職員が未配置の市町村では専門職員の配置を促進する必要がある。
 専門職員が配置されている市町村にあっても、調整や調査組織との連絡等について、組織として適切に対応することができるよう措置する必要がある。

 3 都道府県と市町村の調査体制

(1)都道府県
 ア 現状
(ア)調査組織の形態
 かつては大半の都道府県において教育委員会の文化財主管課が自ら直営で発掘調査を実施していたが、発掘調査量の増大やそれに対応する職員の増員に伴い、昭和四40代末以降、次第に発掘調査を行う組織を、教育委員会の付属機関や公益法人として、文化財主管課から独立させ、調整業務と調査業務の組織を分化させる動向が続いている。この結果、発掘調査業務を行う組織の形態としては、現在、1教育委員会直営、2公立調査機関、3公益法人調査機関の三つがある。
 1教育委員会直営
 教育委員会の文化財主管課が調整の業務と調査の業務とを行う形態であり、後述の公立又は公益法人の調査機関の設立に伴い、この形態は減少したが、現在12県がこの形態をとっている。このうち4県では、公益法人の調査機関も設けている。
 この組織の形能やでは、調整と調査の業務を円滑に進めることができるが、職員定数の関係で増員を図ることが困難な面がある。
 2公立調査機関
 調査を実施する組織を教育委員会の付属機関として設置しているものであり、現在22県がこの形態をとっている。この機関の他に公益法人調査機関を設置したり、当初は公立調査機関を設けていたが公益法人調査機関に改組した例もある。
 教育委員会の付属機関であり、調整を行う文化財主管課との関係は比較的円滑であるが、職員の増員を図りにくい面では教育委員会直営と同じである。
 3公益法人調査機関
 調査を実施する組織として都道府県が公益法人を設立しているものであり、既存の公益法人に発掘調査部門を付設した例もある。現在29県(うち7県は直営あるいは公立調査機関を併置する。)がこの形態をとっている。
 組織の独立性が強いことから、調整を行う教育委員会との連絡・調整を円滑に行いにくい面がある。
 また、現在の公益法人調査機関は、財政基盤が脆弱なものが多く、運営が不安定になりやすい面がある。
 教育委員会の職員定数に関わらず職員を採用することができるので、上記1、2の組織形態に比べて、発掘調査事業量の変化に応じた職員の増員等を図りやすい。
(イ)埋蔵文化財担当専門職員の配置状況
 全国の都道府県とその関係機関に配置された埋成文化財関係の専門職員は、平成6年度で、合計2,252人である。このうち235人は博物館等関係機関において教育普及、学術研究等に専従し、156人は嘱託職員であり、これを除いた1,861人が埋蔵文化財を担当している正規職員である。調査組織に配置されているのは調整業務を担当する210人を除いた1,651人である。
 組織形態別の内訳は、教育委員会直営が156人、公立調査機関が395人、公益法人調査機関が1,091人である。
 教育委員会直営の調査部門と公立調査機関の職員は、都道府県の採用試験により採用された職員と教員から異動してきた職員とに分けられる。両者の職員の比率は各都道府県ごとに様々であり、教員から異動しできた職員がいないところもある。
 公益法人調査機関の職員は、都道府県から派遣された職員と法人に直接採用された法人固有職員とに分けられる。その内訳は、合計1,091人の公盗法人調査機関職員のうち前者が全体の65%の707人、後者が35%の384人であるが、その比率は各法人ごとに様々であり、法人固有職員を採用していない法人もある。さらに都道府県から公益法人調査機関に派遣された職員にも、都道府県に直接採用された者と教員から異動してきた者がある等、採用の形態は多様である。
 大学で考古学を専門に学んだ経歴をもつ職員の比率は、調整組絨に配置された職員を含めて、都道府県に直接採用された者748人のうち665人(89%)、教員から異動してきた者726人のうち211人(29%)、法人に直接採用された者387人のうち324人(84%)であり、教員から異動してきた者においてはその比率が低い。
(ウ)埋蔵文化財担当専門職員の増員の動向
 平成6年度における都道府県とその関係組織の埋蔵文化財担当専門職員数は、10年前の昭和59年度の約1.7倍に増加しており、都道府県の埋蔵文化財保露体制はかなり充実が図られてきている。しかし、国・都道府県等が行う公共事業等に伴う発掘調査の事業量が著しく増加しているため、調査体制の充実がこれに追いつかず、一部で、事業計画への影響がみられる。このような事態に対応するために埋蔵文化財担当専門職員の増員が必要と考えている都道府県は、41県、全体の87%に達している。

 イ 課題
(ア)調査組織の形態に適合した運営
 教育委員会直営、公立調査機関、公益怯人調査機関という調査組織の形態の違いによって、組織の運営基盤、職員の採用形態、調整組絨との相互の関係等も異なる面がある。したがって、それぞれの組織ごとの長所・短所を的確に認識して、組織運営の充実・改善を行う必要がある。
(イ)職員の専門性
 調査組織に属する埋蔵文化財担当専門職員のうち大学で考古学を専門に学んだ経歴をもつ者の比率は全体の63%である。このような経歴をもたなくとも発掘調査の経験と実績を十分もち、専門性を備えた者も多いが、それが不十分な者もみられる。発掘調査の精度を保ちつつその効率的な実施を図るためにも、職員の専門性を確保する必要がある。
(ウ)職員の充実
 開発事業計画の進捗に著しい影響を及ばさないために、それに伴う発掘調査の事業量に応じた埋蔵文化財担当専門職員数を確保する必要がある。

(2)市町村
 ア 現状
(ア)埋蔵文化財担当専門職員の配置状況
 平成6年度における市町村の埋蔵文化財関係の専門職員は、嘱託職員を含めて全国で3,274人であり、昭和59年度の約2.1倍となっている。このうち105人が教育普及、学術研究等に専従し、これを除いた3,169人が埋蔵文化財を担当している。地方公共団体における埋蔵文化財保護の体制が整備されはじめた昭和40年代後半から50年代前半にかけては、都道府県の職員数が市町村を上回っていたが、昭和57年にほば同数となり、現在では都道府県の職員数の約1.5倍となっている。なお、市町村の専門職員のうち大学で考古学を専門に学んだ経歴をもつ者の比率は69%である。
 このように市町村の専門職員が急速に増加した背景には、市町村において「地域の文化財は地域で保存し活用する」という理念が理解され、重要な遺跡を保存し、その整備・活用を図ることに対して関心が高まったことや、開発に伴う発掘調査の件数が増加したことにより都道府県だけでは発掘調査に対応できなくなり、次第に都道府県と市町村の投割分担が定まってきたこと等がある。
 平成6年度には1,259市町村に埋蔵文化財担当専門職員が配置されており、全国3,258市町村に対する配置率は39%で、10年前の昭和59年度の680市町村と比べて着実な伸びを示している。しかし、市町村別の職員配置状況は556市・特別区(配置率82%)、639町(配置率32%)、64村(配置率11%)であり、市・特別区に対して町村の配置が遅れている。
 専門職員が配置されている市町村における一市町村当たりの専門職員数の全国平均は約2.6人であり、これを市町村別にみると、市は4.1人、特別区は2.5人、町は1.5人、村は1.3人である。専門職員の配置が1人のみの市町村は全国で690市町村あり、専門職員配置市町村の55%に当たっている。
 以上のような状況からすると、市町村における埋蔵文化財保護体制はまだ十分とはいえない。
(イ)調査組織の形態
 各市町村における埋蔵文化財担当専門職員数は、都道府県に比べて著しく少ないのが一般的である。したがって、はとんどの市町村が教育委員会直営の形態で発掘調査を行っている。
 埋蔵文化財が多く、開発事業も多い大規模な市を中心に、教育委員会の文化財主管課から独立した調査組織を設立して対応しているところが、現在、38市1町ある。そのうち公立調査機関は18、公益法人調査機関は21である。
 なお、市町村によっては、任意団体として恒常的な調査組織を設けて管内の発掘調査を行っている例がある。
(ウ)埋蔵文化財担当専門職員未設置の市町村における発掘調査への対応
 埋蔵文化財担当専門職員を置いていない市町村において発掘調査を行う必要が生じた場合、現払そは、以下のような方法により対応している。
 ・新たに専門職員を採用する。
 ・市町村の一般事務職員を都道府県が実施する養成研修に参加させ、調査担当者とする。
 ・都道府県職員の派遣を受ける。
 ・発掘調査を行う能力を有する個人に委嘱する。
 ・会社組織その他の民間調査機関を導入する。

 イ 課題
(ア)埋蔵文化財保護行政における市町村の位置付け
 埋蔵文化財保護行政における市町村の役割をより明確にし、体制の整備充実を一層進める必要がある。
(イ)埋蔵文化財担当専門職員の配置の促進
 近年、埋蔵文化財担当専門職員を配置する市町村はかなり増加してきているものの、その数は全体の40%弱にとどまっている。専門職員が配置されていない市町村では埋蔵文化財保護に関する基本的な行政を十分に行うことができないので、市町村が責任をもって埋蔵文化財保護を進めるためには、専門職員未配置の市町村にその配置を促進する必要がある。
(ウ)適正人員の確保
 埋蔵文化財担当専門職員の日常業務は開発業者等との事前協議、発掘調査の運営・管理等多岐にわたり、その量も多い。市町村の体制は小規模のところが多いが、既に専門職員が配置されている市町村においても、経常的な発掘調査室に応じた適正な専門職員の確保に努めることが必要である。
(エ)都道府県による指導・支援の充実
 市町村においては、都道府県と異なり、専門職員数が少ないため、専門職員同士相談しつつ発掘調査等を進める必要がある場合であってもそれが困難な事情にあることが多いことから、都道府県は、市町村が行う発掘調査等に対して積極的に指導・支援を行う必要がある。
 また、埋蔵文化財の保存、発掘調査の成果の公開活用等に関しても都道府県の一層の指導・支援が期待される。
(オ)公益法人調査機関における留意点
 大規模な市では公益法人の調査組織が設立される傾向があるが、公溢法人調査機関は調整組織との連結・調整が困難になりがちであり、また法人固有職員を採用した場合は他の組織との人事交流が困難である等の問題点があることを十分認識しておく必要がある。

(3)広域調査組織
 ア 現状
 財政規模の小さな町村では単独で専門職員を採用することが難しいことから、兵庫県、長野県では、既存の広域行政事務組合等の組織内に専門職員を配置することが行われており、平成6年度においてこのような組織が兵庫県で5、長野県で1ある。専門職員は広域行政事務組合等で採用されており、その数は1人から2人である。
 千葉県では、市町村が分担する発掘調査に即応するための調査体制として、大規模な市を除いて県下を地区割りし、各地区ごとに複数の市町村が共同して財団法人の「地区文化財センター」を設立しており、これが現在6ある。職員数は大きいところは30人以上、小さいところでも5人から6人で、他県の広域調査組織に比べて大規模である。専門職員はすべて県と市町村から派遣されており、法人固有職員は採用していない。

 イ 課題
(ア)調査の具体的な実施等について各構成市町村の意向の影響を受けやすい傾向があるため、円滑な調査の実施に困難を伴うことがあり、構成市町村間の理解と合意が必要である。
(イ)組織の性格・位置付け上、調整を行う各構成市町村の教育委員会との連絡・調整を円滑に行いにくい面があるので、それらとの連携を密に保つ必要がある。

 4 民間調査組織

 ア 現状
 民間調査組織としては、発掘調査を行う組織(以下「民間調査機関」という。)と排土作業、測量等の発掘調査関連の仕事で必ずしも考古学的な知識・技能を要しない分野について調査を支援する組織(以下「民間調査支援機関」という。)がある。
(ア)民間調査機関
 民間調査機関としては、発掘調査を専門に行う会社、建設・測量会社の一部門で発掘調査を行うもの、発掘調査を専門に行う者が組織した恒常的な任意国体、特定の埋蔵文化財の発掘調査のために地方公共団体がその都度臨時的に組織する任意団体等がある。
 その活動は、関東圏及び近畿圏に集中する傾向があり、関東圏で活動するものとしては、主に発掘調査を専門に行う会社、建設・測量会社の一部門、地方公共団体が臨時的に組織する任意団体が多く、近畿圏で活動するものとしては、発掘調査を専門に行う者が組織した恒常的な任意団体が多 このうち発掘調査を専門に行う会社、建設・測量会社の一部門、発掘調査を専門に行う者が組織した恒常的な任意団体については、これまでに25の団体が18都道府県において活動した実績がある。
 民間調査機関の活動範囲は多くの場合県内あるいは隣接県内となっているが、さらに広域で活動しているものが4団体ある。
(イ)民間調査支援機関
 民間調査支援機関が行う作業は、一測量、表土掘削、遺構・遺物実測、遺構・遺物撮影、整図等である。民間調査支援機関に作業を委託している都道府県は43(91%)、市町村は687(54%)であり、大規模な調査が多い都道府県においてその導入が活発である。委託している作業内容は測量、遺構・遺物の実測・撮影等が多い。

 イ 課題
 開発事業との関連で行われる発掘調査は、文化財行政の一部として行われるものであることから、発掘調査に民間調査機関を活用する場合にあっても、地方公共国体の埋蔵文化財保護行政の枠組みの中で、その明確な指導・管理のもとに行う必要がある。
 したがって、民間調査機関を導入する場合は、当該地方公共団体は、それを十分指導・管理することができる職員を配置する等、まず埋蔵文化財保護の体制を充実する必要がある。
 また、民間調査機関を導入することにより行政の体制整備の推進と相反する面が生ずることが懸念されるので、都道府県・市町村の文化財担当部局では民間調査組織の導入に対して慎重にすべきだという意見が、かなりある。
 以上の点から民間調査機関の導入については、それが埋蔵文化財の保護にとって支障とならないよう、条件を明確にする等周到な配慮の下に行う必一要がある。

 5 都道府県と市町村の役割分担と相互支援

(1)発掘調査における都道府県と市町村の役割分担
 ア 現状
 発掘調査に係る都道府県と市町村の役割分担は、それぞれの地域における状況に応じて決められており、必ずしも同じ基準によっているものではない。多くの地域では、発掘調査の原因となった開発事業の主体者の区分に従い、公共事業のうち国・都道府県及び公社・公団の事業に係るものは都道府県、市町村の事業及び民間の事業に係るものは市町村が担当している。なお、圃場整備事業に伴う調査は、事業主体が国・県であっても市町村が実施している場合が多い。その他に、発掘調査の規模や複数の市町村に関係するか否か等の広域性の観点によって分担を決めている場合もある。いずれの場合でも市町村と民間の事業に伴う調査は基本的に市町村が分担している。
 民間の事業に伴う発掘調査は、公共事業に伴うものに比べて計画的に実施しにくい面があるため、これを分担している市町村においては、計画的に調査体制を整備することが困難な面をもっている。また、市町村では、民間の開発事業に伴う発掘調査を市町村だけが分担することとされていることに対する不満がある等、都道府県と市町村との間で役割分担について共通理解が必ずしも得られていない場合もある。

 イ 課題
 各地域において開発事業の内容と調査体制に差異があるので、直ちに全国一律の役割分担を定めるのは困難であるが、「地域の文化財は地域で保存し活用する」という理念に立って埋蔵文化財の保護を行うためには、市町村の体制の整備充実とそれを推進する上での都道府県の十分な指導・支援が必要である。その上で、将来的には、関係者の共通理解により、全国一律の役割分担に基づいた調査体制の構築をめざす必要がある。

(2)地方公共団体間の相互支援
 ア 現状
(ア)都道府県間の相互支援
 これまでに、関西国際空港建設関連公共事業に伴う発掘調査に対応するために、大阪府が昭和60年から平成6年度までの開設置した財団法人大阪府埋蔵文化財協会へ、近畿ブロックの5府県の職員が派遣されたことがある。また、平成7年度には阪神淡路大震災の復興事業に伴う発掘調査に対応するために、全国25都道府県から35人が兵庫県に派遣されている。
(イ)都道府県と市町村間の相互支援
 いくつかの県では、県の専門職員が市町村へ出向する形の人事交流が行われている。また、34の都道府県において、市町村の担当する調査に都道府県の専門職員を派遣した事例があり、19の都道府県において、都道府県の担当する調査に市町村の専門職員を派遣した事例があるが、総じて活発でない。
(ウ)市町村間の相互支援
 全国199市町村が他の市町村の行う発掘調査に専門職員の派遣を行った経験をもっている。

 イ 課題
 都道府県問の相互支援においては、人事に関する制度が異なる他の都道府県への異動、遠隔地への赴任、個々の職員の派遣元の事情等により様々な問題が生じるので、特にそれらについての周到な対策が必要である。
 地方公共団体間における専門職員の派遣、人事交流を活発にするための方策を検討する必要がある。

 6 人材の養成と研修

 埋蔵文化財保護体制をより充実させるためには、考古学や発掘調査に関する専門的知識・能力を備えた人材を確保することが必要である。そのためにこれを修得させることを目的とする人材養成(以下「養成」という。)と、地方公共団体の埋蔵文化財担当専門職員の資質・能力の向上を図ることを目的とする研修(以下「研修」という。)を拡充する必要がある。

(1)大学における教育
 ア 現状
 大学は、埋蔵文化財行政の基礎となる考古学、歴史学、文化財学等の幅広い知識を修得するところであるから、埋蔵文化財行政の担当者となる人材の養成について、その果たす役割は大きい。
 考古学関係の講義を担当する常勤の教員を置いている大学・大学院のうち、卒業生・修了生等の進路について把握できた54大学、34大学院についてみると、平成元年度から5年度までの5年間に地方公共団体等の埋蔵文化財担当専門職に就職した卒業生・修了生は、大学卒業生で2,339人のうち555人(24%)、大学院修了生で347人のうち133人(36%)である。大学と大学院を合わせると、2,713人のうち688人(25%)が地方公共団体等の埋蔵文化財担当専門職に就職しており、年平均では約540人のうち約140人が地方公共団体の埋蔵文化財担当専門職に就職している。
 地方公共団体等の埋蔵文化財担当専門職員数は、平成元年度から5年度では毎年300人前後が増加しており、このうち約半数が大学で考古学を専門に学んだ者である。この傾向は平成元年度以降大きく変動はしていない。
 大学で考古学を専門に学んだ卒業生・修了生の志望は、都道府県と大都市圏の市町村及び人口規模の大きい市の埋蔵文化財担当専門職への就職に偏る傾向がある。


 イ 課題
(ア)大学で考古学を専門に学んで卒業した者だけでは地方公共団体等における埋蔵文化財担当専門職員の採用予定数を満たすことができない。特に大都市圏の市町村及び人口規模の大きい市を除いた市町村においては、人材の確保が田難な状況にあり、その対応策を検討する必要がある。
(イ)現状における大学の教育内容は、埋蔵文化財保護のための人材養成という観点からみると必ずしも十分なものとはいえないので、大学教育における講義内容において埋蔵文化財行政に関する実務や法制度、発掘調査に関わる実習等をさらに充実させる必要がある。

(2)国及び都道府県が実施する養成・研修
1 専門職員の養成
 ア 現状
(ア)奈良国立文化財研究所
 奈良国立文化財研究所が行っている「一般研修」は、地方公共団体等の職員で大学で考古学を専門に学んだ経度をもたない職員を対象にしており、埋蔵文化財に関する基礎的な知識・技術の習得を目的としている。研修期間は約40日であり、発掘調査の実習は、同研究所が所在する平城宮跡が特殊な遺跡であることもあって、発掘調査現場の見学程度にとどまっている。毎年約30人程度が受講している。
(イ)都道府県
 現在、半年から1年の期間で市町村の一般事務職員を対象として、発掘調査と室内作業の実習及び埋蔵文化財行政に関する講義により専門職員の養成を行っているところが6都道府県ある。
 養成には1年程度の期間が必要であるが、市町村にはその期間職員を参加させる人的・財政的余裕のないところが多く、養成を行う都道桁県の人的負担も大きい。

 イ 課題
(ア)奈良国立文化財研究所
 奈良国文文化財研究所が行っている養成では、受講期間が短く発掘調査の実習をはとんど行っていないため、発掘調査担当者を養成するには不十分である。したがって、国の養成機能の充実強化が必要であり、このための養成組織の在り方などについて検討する必要がある。
(イ)都道府県
 現在都道府県が行っている養成では、その後発掘調査の担当者として自立するまでにさらに2年から3年の実地経験が必要であり、その間都道府県からの手厚い指導・支援が不可欠である。
 発掘調査の技術だけではなく、考古学、歴史学の基碇的な素養を十分に養う必要がある。養成に伴う都道府県及び市町村の負担を軽減するための措置を講ずる必要がある。

2 現職の研修
 ア 現状
(ア)奈良国立文化財研究所
 写真技術・遺跡探査・保存科学等の専門的な研修を年間10から11講座行っており、全国の都道府県・市町村から270人前後が受講しているが、受講希望者は定員をかなり上回っている。研修期間は1週間から2週間程度である。
(イ)都道府県
 29都道府県が、都道府県又は市町村の職員を対象として、発掘調査等に関する研修を実施している。研修の期間は1日から3日の短期のところが多い。

 イ 課題
 国と都道府県が分担しながら体系的に現職の研修を推進する必要がある。

(ア)奈良国立文化財研究所
 研修期間が1週聞から2週間とやや長いことや研修の場所が全国で1か所しかないこと等の理由で研修に参加しにくい面があるとともに、受講希望者のすべてを受け入れることができない実情にあることから、短期間の研修、地方ブロックごとの研修等多様な形態を検討する必要がある。
(イ)都道府県
 都道府県が実施している研修は、回数・期間ともに極めて限られており、埋蔵文化財に関する最新の調査方法等の知識・技術を習得するには不十分であるので、今後一層その充実を図る必要がある。

(3)資格制度
 ア 現状
 埋蔵文化財専門職員の技術、知識、経験等の水準は必ずしも一定でない状況にあるが、資格制度を設けて、発掘調査を行う能力を有する者であることを客観的に示す仕組みをとることによって、調査の水準を一定程度の高さに確保することや専門職員採用の際の判断基準等として活用すること、さらに地方公共団体職員の行政内における専門性を裏付けることにも資することができるという指摘がある。

 イ 課題
 資格制度については、技術の分野・水準の設定、審査基準、審査方法、資格の効果等調査・研究すべき多くの課題がある。

第3章 埋蔵文化財保護体制に関する改善方策


 埋蔵文化財は、それぞれの地域の歴史と文化に根ぎした貴重な歴史的遺産であり、地域独自の歴史・文化環境を形作る重要な要素として個性豊かで活力に満ちた地域社会の実現に欠かせないものである。したがって、埋蔵文化財保護体制の構築に当たっては、「文化財は国民共有の財産」であると同時に、「地域の埋蔵文化財は地域で保護し活用する」という理念に基づいて進められることが必要である。

 1 国、都道府県、市町村の役分担と連携強化

 国、都道府県、市町村は、埋蔵文化財保護行政においてそれぞれ果たすべき役割を正しく認識し、それに対応し得る埋蔵文化財保養体制を長期的な展望のもとに整備充実するとともに、相互の連携を強化する必要がある。

(1)原則的な市町村の役割
 埋蔵文化財に関する調整、調査、保存・活用については、地域に密着した文化財がもつ特性から、その在るべき姿としては市町村が大きな投割を担うべきものであり、長期的にはすべての市町村がこの機能を備える必要がある。

(2)原則的な都道府県の役割
 都道府県は、大規模あるいは広域にまたがる埋蔵文化財の発掘調査とその調整及び重要な遺跡の保存・活用を国、市町村と連携して行う一方、市町村の業務を総合的に指導・支援する必要がある。

(3)当面の都道府県と市町村の役割分担
 現状では、発掘調査等についての都道府県と市町村の役割分担は、各都道府県ごとに開発事業者の種別や調査規模等によってある程度確立されてきている。各地の開発事業の内容、行政的な事情の相違を考慮すると、当面は全国一律の分担基準を設定してそれによることとするのは適当ではないが、上記に示す基本的な方向に沿って都道府県と市町村はそれぞれ埋蔵文化財保養体制の整備充実を図る必要がある。

(4)国の役割
 国は、全国的な視点に立って、埋蔵文化財保護に関する基本的な理念及び政策を確立し、それに基づいて地方公共団体を適切に指導するとともに、人材の養成・研修の実施と支援、調査水準の維持向上、地方公共団体に対する財政的支援の充実等に努める必要がある。
 また、国として重要な遺跡については、関係者の理解と協力を得て史跡に指定する等積極的な保護を図る必要がある。

 2 都道府県の調整・指導・調査体制の強化

 都道府県は、管下の埋蔵文化財行政の中枢的な立場にあり、自らが主体となって発掘調査を行うだけでなく、調整・指導の機能をさらに高める必要があり、そのための体制をより一層整備充実する必要がある。

(1)適正な職員数の確保
 都道府県は、自らが行う諸業務を十分に遂行しうる適正な職員数を確保する必要がある。

(2)専門性の高い職員の確保
 都道府県は、市町村に対する指導・支援を十分に行うことができるよう、埋蔵文化財の取扱い等の調整及び発掘調査業務等に関する適切な対応能力等を備えた人材を確保する必要がある。

(3)人事交流の促進
 調整組織に発掘調査等について経験豊富な人材を配置し、調査組織と連絡・調整を円滑に行うために、調査組織との人事交流を促進する必要がある。

(4)調査体制の改善
 現状では、全国の発掘調査体制を単一の形態に統一することは現実的でないので、各地方公共団体のこれまでの組織体制の特性を認識して、これを改善充実することを原則的な方向とするのが適切である。
 各調査組織は、十分な職員体制と財政的基盤をもつことが必要である。

 3 市町村の調整・調査体制の整備充実
 埋蔵文化財は地域の歴史・文化に根ざした性格を有しており、その適切な保護・管理に当たっては住民の理解・協力を得つつきめ細かな対応を必要とすること等から、埋蔵文化財の保護については和町村が大きな役割を担うべきものである。
 この基本的理解に立って市町村の役割を明確にするとともに、より一層の体制の整備充実を進める必要がある。

(1)教育委員会と市町付長部局との理解の確保
 埋蔵文化財保護行政を適切に進めるためには、教育委員会と市町村長部局との相互理解と連携が必要であることから、市町村の行政山部において埋蔵文化財保護と埋蔵文化財担当専門職員の業務に関する市町村長部局の理解を深めるとともに、相互の連携を強化する必要がある。

(2)埋蔵文化財担当専門俄員の配置の促進
 市町村における埋蔵文化財保護体制は、専門職員を配置していないところが多く、あるとしても小規模である場合が多いため、調査等の能力に限界があることから、既に専門職員が配置されている市町村においては、経常的な発掘調査量に応じた適正な数の専門職員の配置を促進し、専門職員が配置されていない市町村においては、少なくとも埋蔵文化財保護に関する基本的な行政を行うことができるよう、専門職員の配置に努める必要があり、そのための所要の財政措置の充実を図る必要がある。

(3)広域調査組織の検討
 小規模の市町村においては、一定の地域内に所在する複数の市町村が共同して広域の調査組織を設立することも考えられる。ただし、広域調査組織の設立、運営に当たっては市町村間の理解と合意の確保、各市町村の調整組織と調査組織との連携、職員の採用形態等に十分配慮する必要があり、そのためにはこれらに関する都道府県による調整と指導・支援が不可欠である。

(4)施設の充実
 発掘調査に関連する業務を円滑に進め、出土品の収納保管、調査成果の活用を図り、地域の歴史・文化の拠点施設となる埋蔵文化財センター等の施設の充実を図る必要がある。
 そのため、補助金等財政的措置の拡充を検討する必要がある。

 4 相互支援の推進

 都道府県と市町村は、それぞれ必要な体制を整えた上でなお対応能力を超過する発掘調査事業が必要になった場合は、相互に支援を行う等柔軟な対応に努めることが必要である。そのことによって、相互に埋蔵文化財保護の業務内容についての理解が深められるとともに、一層の相互支援、連携強化、職員の能力・資質の向上等についての効果も期待される。

(1)地方公共団体間の人事交流の推進
 都道府県は、埋蔵文化財保護体制が脆弱な市町村の体制充実のために一定期間、業務に精通した職員を出向させ、市町村も、体制の整っている都道府県へ職員を出向させる等の都道府県と市町村間の人事交流や、都道府県間、市町村間の人事交流等を推進する必要がある。

(2)地方公共団体間の相互派遣の推進
 都道府県と市町村のそれぞれの対応能力を超える突発的な発掘調査事業の急増等に対しては、都道府県と市町村の間あるいは市町村間において専門職員を適宜相互に派遣する方策を講ずる必要がある。

 5 人材確保と資質の向上

 埋蔵文化財保護体制の紫備充実を推進するためには、地方公共団体とその関連機関において専門的な知識・技能を備えた人材を確保することが不可欠であるが、現状では大学で考古学を専門に学んで卒業した者だけでは地方公共団体等における埋蔵文化財担当専門職員の採用予定数を満たすことができないため、新たな養成の仕組みを検討する必要がある。また、現職の埋蔵文化財担当専門職員の資質の向上を図る必要がある。

(1)大学における埋蔵文化財に関する教育の充実
 埋蔵文化財行政を担当する専門職員には考古学の知識・素養が必要であり、埋蔵文化財保護行政に有用な人材の養成は、大学に期待するところが今後とも大きい。したがって、埋蔵文化財保護のための人材養成という観点からは、それに資するような教育研究組織の整備や考古学、埋蔵文化財等に関する授業科目の開設等が期待される。

(2)人材養成を中心とした埋蔵文化財機構設立の検討  埋蔵文化財担当の専門職員を養成するため、地方公共団体の職員を対象にした専門職員の養成を行う埋蔵文化財機構の設立を検討する必要がある。この機構は、全国的な視点から、専門職員の餐成の他に現職の専門職員の資質向上のための研究を行うとともに、さらに埋蔵文化財の調査方法及びその整備・復元等を含めた保存・活用方法の開発・指導・助言、埋蔵文化財に関する先端、最新の情報や埋蔵文化財専門聯員及び埋蔵文化財関連の人材、組織等に関する情報の提供を行う等、埋蔵文化財とその関連分野に関する総合的機能をもったものとすることを検討する必要がある。

(3)現職研修のシステムの改善と支援
 埋蔵文化財担当専門職員の資質の向上を図るために、国及び都道府県の現職研修、地方ブロックごとの研修等多様な研修機会を充実するとともに、大学、奈良国立文化財研究所等に大学院レベルの研修コースを設置することを検討する必要がある。また、都道府県で行う研修をさらに充実させるための財政的支援や研修に伴う財政的な支援を検討する必要がある。

(4)資格制度の検討
 現状では発掘調査を担当できる能力判定の基準は必ずしも明確ではない。今後予想される調査室の増加と調査形態の多様化に対応するために、発掘調査の水準の確保や調査の担当能力を客観的に示す基準の設定が求められよう。資格制度は、このような要請に応えるものであると考えられるが、制度の創設、在り方についてはなお検討すべき多くの課題があり、引き続き検討する必要がある。

 6 民間活力の適正な活用

 発掘調査に民間の活力を導入することは、調査に関連する作業等の分野については調査の迅速化等に資する面があるが、山方、民間の調査機関の導入は行政の体制整備の推進と相反する面が生じることが懸念される。したがって、民間活力の導入に際しては、次のような原則の下に進めることとするとともに、特に民間調査機関の導入については、あらかじめ、導入の前提条件、導入の形態、標準的な発掘調査内容と民間機関に行わせることのできる範囲等について指導方針を定めて行う必要がある。

(1)民間調査支援機関の効果的な利用
 排土作業・測量等の発掘調査朗連の仕事については、発掘調査を効率よく進めるために有効な場合は、民間調査支援機関の効果的な導入を図る必要がある。

(2)民間調査機関の導入
 民間調査機関の導入は、それを行う地方公共団体が一定程度の調査体制をもっており、その体制によっては著しく調査の遅延が生じている場合又は短期的な調査の急増があった場合で、他の地方公共団体との相互支援等によっても対応できない事態が生じた場合に限って、次の条件の下で行うことができることとする必要がある。
(a)民間調査機関の選択、調査に関する事業者との契約等について、その地方公共団体が責任をもって対応すること。
(b)導入しようとする民間調査機関とその調査担当職員は、調査につき十分な能力と実績をもつものであること。
(C)発掘調査は、地方公共団体が主体となり、民間調査機関をその調査組織に組み込む形態で、地方公共団体の責任の下に行うこと。

参考資料

目 次
1 調査研究委員等名簿
 1 委員名簿
 2 協力者名簿
2 調査研究委員会等の審議経過
 1 委員会の経過
 2 協力者会議の経過
3 埋蔵文化財保護体制に関する実態調査結果
 1 埋蔵文化財発掘届等件数の推移
 2 地方公共団体の埋蔵文化財関係職員数の推移
 3 都道府県の体制
  (1)都道府県別埋蔵文化財担当職員数
  (2)埋蔵文化財担当正規職員の組織別・採用区分別職員数
 4 市町村の体制
  (1)市町村埋蔵文化財担当職員配置率・職員数
  (2)市町村の専門職員配置率と専門職貝の比率
      1市町村の専門職員配置率
      2市町村の考古卒職員の比率
 5 埋蔵文化財担当専門職員の増員
  (1)増員の必要性
  (2)増員計画
 6 広域調査組織と民間調査機関
  (1)都道府県別広域調査組織数と導入民間調査機関数
  (2)専門職員未配置市町村での発掘調査
  (3)民間調査機関等の導入事例の有無
  (4)民間調査機関等の発掘調査実演
  (5)民間調査支援機関の利用状況
     1業務委託の事例の有無
     2委託業務の内容
 7 役割分担と相互支援
  (1)役割分担
  (2)相互支援
     1県と市町村相互の支援
     2県相互の支援
     3市町村相互の支援
 8 人材養成と研修
  (1)大学及び大学院
  (2)奈良国立文化財研究所
  (3)都道府県の人材養成
  (4)人材養成及び国の養成機関
     1人材養成の必要性
     2国の養成機関の必要怪
  (5)現職職員のための研修
     1現職研修の有無
     2現職研修の必要性

【個人名の記載やグラフの取扱いなどの問題があるので、とりあえず省略します】


縄文学研究室トップ法令集トップ管理人:Nakamura Kousaku
E-mail:info@jomongaku.net