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【1998年】
【『月刊文化財』98年7月号(通巻418号)より】

埋蔵文化財の把握から開発事前の発掘調査に至るまでの取扱いについて(報告)


平成10年6月                       
 埋蔵文化財発掘調査体制等の整備充実に関する調査研究委員会

目次

はじめに
序 章
第1章 埋蔵文化財包蔵地の把握と周知
 1 現状と課題
 (1)埋蔵文化財の範囲の拡大と地方公共団体における取扱い
 (2)埋蔵文化財包蔵地の把握、周知の埋蔵文化財包蔵地の決定及び資料化
 (3)周知の埋蔵文化財の所在・範囲に関する情報の集約と精度
 2 改善方策
 (1)埋蔵文化財包蔵他の把握と周知についての基本的な考え方
 (2)埋蔵文化財として扱うべき遺跡の範囲
 (3)埋蔵文化財包蔵地の所在・範囲の把握
 (4)周知の埋蔵文化財包蔵地の決定
 (5)周知の埋蔵文化財包蔵地の資料化
 (6)周知すべき埋蔵又化材包蔵地の所在・範囲及びそれに関する資料の更新等
第2章 試掘・確認調査の意義と方法
 1 現状と課題
 (1)試掘・確認調査の実施状況等
 (2)試掘・確認調査の方法
 2 改善方策
 (1)試掘・確認調査に開する基本的な考え方
 (2)試握・確認調査の内容についての留意事項
 (3)試掘・確認調査方法の研究・開発
第3章 埋蔵文化肘包蔵地のうち本発掘調査を要する範囲の特定
 1 現状と課題
 (1)本発掘調査を要する範囲に関する基準
 (2)本発掘調査範囲の特定の現況
 2 改善方策
 (1)本発掘調査を要する範囲の特定に関する基本的な考え方
 (2)本発掘調査を要する範囲の特定に関する標準
第4章 本発掘調査を要する場合の原則及びその考え方
 1 現状と課題
 (1)本発掘調査を行うかどうかの取扱いの現状
 (2)本発掘調査を必要としない場合の取扱いの現状
 (3)課題
 2 改善方策
 (1)本発掘調査を要する場合についての基本的な考え方
 (2)工事立会・慎重工事についての基本的な考え方
 (3)留意事頂等
参考資料


はじめに

 埋蔵文化財発掘調査体制等の整備充葵に関する調査研究委員会(以下「委員会」という。)は、平成6年10月に、近年の開発事業の増大に伴う埋蔵文化財の発掘調査に関する諸課題に適切に対応するため、埋蔵文化財発掘調査体制等の整備充実について調査研究を行うことを目的として設置された。調査研究を進めるに当たっては、各地方公共団体等における実態をを踏まえより審議を深めるため、都道府県・市町付教育委員会及びその関係機関の実務担当者からなる協力者会議を設置した。
 委員会では、概ね(1)埋蔵文化財保護体制の整備、(2)埋蔵文化財包蔵地の周知化と開発事業との調整、(3)発掘調査の方法・期間・費用、(4)出土遺物の取扱いと保管方法、(5)その他、の検討課題について調査研究を進めることとし、平或6年度・7年度に埋蔵文化財保護体制の整備について、平成7年度・8年度に出土遺物の取扱いと保管方法についてそれぞれ検討を行い、その結果を「埋蔵文化財保簑体制の整備充実について」及び「出土品の取扱いについて」として報告したところである。
 近年の周知の埋蔵文化財包蔵地における土木工事の届出・通知の件数とそれに伴う発掘調査件数は依然として増加傾向を示しており、開発事業との関わりにおける調整や発掘調査が埋蔵文化財行政において重要な部分を占わている。このような開発事業との関わりにおける埋蔵文化財行政の適切な推進に際しては、対象となる埋蔵文化財の把握とその取扱いについての客観的、標準的ら考え方を検討する必要がある。
 このことから、このたびの検討課題は、「埋蔵文化財の把握から開発事前の発掘調査に至るまての取扱い」とし、委員会・協力者会議とも七回開催して検討を重ねてきた。
 今回の調査研究では、この課題について、各地方公共団体における状況を把握した上で課題を整理し、埋蔵文化財保護の理念や方途の検討を踏まえた改善方策を提示し、さらにより強固な保護システムの構築をめざすことを提言するものである。
 本委員会としては、今後文化庁において、本報告を踏まえ所要の施策の実施又は検討を進められるように期待するものてある。
 

序 章

 埋蔵又化財はわが国あるいは全国各地域の歴史や文化の成り立ちを理解する上で欠くことのできない国民共有の貴重な歴史的遺産であり、将来の又化の向上発展の基礎をなすものである。
 埋蔵文化財保護行政の推進については、国民の理解と協力を得ることが不可欠てあり、このため特に開発事業との円滑な調整を図りつつ埋蔵文化財を適切に保護する上では、行政の各段階における判断や措置は、可能な限り客観的・合理的在標準に基づいて行われる必要がある。
 開発事業に伴う埋蔵文化財保護のための措置は、通常、開発事業を早期に把握し、事業計画との調整により、重要な遺跡は史跡指定を周る等により現状で保存し、現状保存か不可能なものについては発掘調査を行ってその内容を記録にとどめることとされている。埋蔵文化財については、地下に埋もれているためその所在や範囲、性格等を把握しにくく、保護の対象を特定しにくいという特性があり、埋蔵文化財の開発事業との調整を円滑に進められない要因ともらっている。
 このような性格の埋蔵文化財について、国民の理解を得ながら保護の行政を進めていくためには、その行政の対象である埋蔵文化財を可能な限り的確に把握するとともに、一定の基準となる考え方に即して各種の措置を講ずる必要がある。このような視点から、一連の埋蔵文化財保護の行政の流れの中で特に客観性・合理性を必要とする事項として、今回、次の事項を取り上げそのあり方について検討することとした。
 1埋蔵文化財の把握と周知(第1章関係)
   文化財保護法が国民に保護を求める埋蔵文化財はどのような時代・種類の遺跡であり、それをどのような方法により把握し、国民に周知するかの課題である。
 2試掘・確認調査の意義と方法(第2章関係)
   埋蔵文化財の保護と開発事業との調整において不可欠である埋蔵文化財の所在・範囲・性格等の内容を的確に把握するための試掘・確認調査をどのようにして行うかの課題である。
 3 本発掘調査を要する埋蔵文化財の範囲及び工事等の内容(第3章・第4章関係〉
   開発事業との調整において、現状保存が不可能在場合に行われる埋蔵ま化財の記録を保存するための発掘調査について、その必要性の有無を判断する際の次の二つの要素についての課題である。第一の要素は、その開発事業地が記録保存のための本発掘調査を要する遺跡の所在する区域かどうかの要素であり、第二の要素は、その開発事業の工事内容が遺跡にどのような影響を与えるかの要素である。
 これらの課題はいすれも埋蔵又化財保護行政における基本的事項てあるが、従来必すしも十分に検討されその標準となる考え方が明らかにされてはこなかった面もあり、今後、この検討を踏まえた行政の推進が期待される。特に、都道府県については、地方分権推進の観点から、今後、埋蔵文化財保護行政の中心になることが期待されているところであり、この報告を踏まえ、基準の作成や埋蔵文化財保護体制の整備に努めることが望まれる。

第1章 埋蔵文化財包蔵地の把握と周知

 文化財保護法による埋蔵又化財の保護においては、あらかじめ埋蔵文化財の存在を把握し、これを法律上の保護対象である「周知の埋蔵文化財包蔵地」として明らかにすることにより、その区域における開発事業等について事前の届出又は通知を求めることが基本である。法律に基づき国民に等しく保護を求める対象としての埋蔵文化財の範囲を、どのような考え方に立って、いかなる時代・種類の遺跡をどのような手順・手続によって周知の埋蔵文化財包蔵地として資料に登載して周知を徴底するかは、埋蔵文化財保護行政を進める上で、基本的かつ重要な課題である。
 文化庁では、昭和35〜37年にかけて全国的な埋蔵文化財包蔵地の分布調査を実施し、これに基づいて「全国遺跡地図」を作成し、以後改訂を行った。また地方公共団体の分布調査や遺跡地図の刊行について、昭和45年から国庫補助事業を創設して支援してきた。さらに、都道府県を通じて、各地方公共国体に対して、埋蔵文化財包蔵地の範囲や性格の的確な把握と遺跡地図あるいは遺跡台帳への明示を指導してきた(昭和60年12月20日付け「埋蔵文化財の保護と発掘調査の円滑化について」の通知平成5年11月19日付け同名通知)。

 1 現状と課題

(1)埋載文化財の範郎の拡大と地方公共団体における取扱い
 現在、埋蔵文化財包蔵地は、原則として市町村において把握し、遺跡地図等に明示することとされており(昭和60年12月20日付け文化庁次長から各都道府県教育委員会あて通知)、市町村がこれに対応できないときは都道府県がこれを行っている。
 埋蔵文化財として保護の対象とする範囲をどこまでとするかを決めるための最も一般的な要素としては、遺跡の時代や種類が挙げちれる。地方公共団体の状況を調査した結果によると、遺跡の種別を問わず時代の要素だけで埋蔵文化財として取り扱う範囲を決めているところは全体の54%である。その内訳は、古代までの遺跡を埋蔵文化財としているところが1%、中世まてが16%、近世までが74%、近代までが9%となっている。ただし、近世以降について埋蔵文化財としているところであっても、対象としているのは特定の種類の遺跡に限っており、必ずしも近世以降の遺跡のすべてを対象としているものではないまた、近代の遺跡を実際に取り扱った事例も、より古い時代の遺跡調査に伴って行ったものか多いが、全体で23%にのぼっている。このように遺跡の時代は、各地方公共国体が埋蔵文化財の対象とする範囲を定める上て大きな要素となっている。また、かつては古代までのものが主要な対象てあったが、今日では、中世はもちろん近世のものについても埋蔵文化財の対象として扱う傾向にある。
 遺跡の種類の要素については、それまで対象として認識されていなかったも(たとえば水田跡や縄文時代の落し穴等)が遺跡としての性格付けがなされ、発掘調査による検出法か確立されること等により、同種の検出例が増加して研究が進展し、埋蔵文化財として定着していくというような経過をたとることが多い。
 このように埋蔵文化財の対象とする範囲が大勢として拡大する傾向にある中で、各地方公共団体が実際に対象としている範囲には同じような時代・種類の遺跡についても差異が生じてきている。地方公共団体の状況を調査した結果によれは、たとえば一般集落遺跡の場合、中世のものはすべて対象としている地方公共団体が65%であるのに対し対象としていないところが11%であり、近世のものはすべて対象としている地方公共団体が23%であるのに対し対象としないところが43%である。また田畑の遺跡の場合、中世のものはすべて対象としている地方公共国体が20%であるのに対して対象としないところが51%であり、近世のものはすべて対象としているところが7%、対象としないところが71一%である。
 上記のように、どのようなものを埋蔵文化財とするかについての考え方には各地方公共団体間に少なからぬ差異が生まれており、これらの差異が今後さらに拡大することが予想される。このような地方公共団体間の差異が地域的な特質に基づく違いの範囲を超える場合は是正する必要があろう。

(2)埋載文化財包蔵地の把握、周知の埋蔵文化財包蔵地の決定及び資料化
 埋蔵文化財包蔵地は、各地方公共団体が独自の分布調査や試掘・確認調査を実施して、詳細に埋蔵文化財の有無、包蔵地としての範囲を把握するのが原則であるが、地方公共団体の状況を調査した結果によると、独自の分布調査によって埋蔵文化財の所在・範囲を把握したところは都道府県が全体の74%、市町村が40%である。
 また、各地方公共団体において及び都道府県と市町村の間において、把握された埋蔵文化財包蔵地について、これを周知の埋蔵文化財包蔵地とするための手続を定めているところはわすかである。
 周知の埋蔵文化財包蔵地とされた場所については、これを「遺跡地図」や「遺跡台帳」等の基礎資料に登載し、開発事業者等に対して提示できるようにしておくことが必要であるが、このような資料を備えている地方公共団体は全体の96%に及ぶ。しかし、資料の質をみると都道府県作成のものを内容的に引き写しているだけの市町村(44%)、埋蔵文化財包蔵地の位置のみが点で示され範囲が表示されていないところ(6%)等さまざまであり、地方公共団体の中には周知の埋蔵文化財包蔵地の区域のうち、遺跡の重要性等により開発事業との調整の際に取扱いの差異を設ける範囲を区分して表示しているところ(6%)、周知の埋蔵文化財包蔵地ではないがこれに準ずる区域を表示した内部資料をもっているところ(36%)もある。
 以上のことから、埋蔵文化財包蔵地を把握し、法律により対象となる周知の埋蔵文化財包蔵地を決め、これを資料化することについては、一定のルールを定め、各地域、地方公共団体間の取扱いの差異を少なくすることが必要と考えられる。

(3)周知の埋蔵文化財包蔵地の所在・範囲に関する情報の集約と精度
 法律上の保護の対象となる「周知の埋蔵文化財包蔵地」は、試掘・確認調査その他の発掘調査等の成果に基づいて、高い精度で把握・決定されることが必要である。しかし、開発事業に伴って必要とされる場合や重要遺跡に係る場合を除くと、埋蔵文化財包蔵他の所在や範囲を広く一般的に把握することを目的とした発掘調査はほとんと実施されていない。地方公共団体における状況を調査した結果によれば、試掘・確認調査を管下について網羅的に実施している地方公共国体は1%、可能な地域についてのみ実施しているところは14%、重要遺跡について実施しているところは18%、実施していないところが66%である。
 また、周知の埋蔵文化財包蔵地の所在や範囲は、新たな発見や確認調査の所見に基づいて常に更新していく必要があるが、地方公共団体によっては、そのような更新の手続をとっていないところ、「遺跡地図」等の資料の改訂・更新を十分に行っていないところ、そのための必要な仕組みを特に定めていないところかある。
 以上のことから、各地方公共国体における周知の埋蔵文化財包蔵地の的確な把握、資料の更新等について国は一定の指針を示すことか必要であると考えられる。

 2 改善方策

(1)埋戴文化財包蔵地の把握と周知についての基本的な考え方
 埋蔵文化財包蔵地の所在と範囲を的確に把握し、これに基づき法律による保獲の対象となる周知の埋蔵文化財包蔵地を定め、これを「遺跡地図」等として資料化し国民への周知の徴底を図ることは、埋蔵文化財の保護上必要な基本的重要事項である。法律の対象として等しく国民に保護を求めるものであるから、周知の埋蔵文化財包蔵地の範囲は、可能な限り正確に、かつ、各地方公共団体間で著しい差異のないものとして把握され、適切な方法て定められ、客観的な資料として表示されていなければならない。このような行政上の措置が十分に執られていることによって、はじめて国民に埋蔵文化財保護への正しい対応を求めることがてき、開発事業の事業者に対しても計画段階から埋蔵文化財の保護に配慮することを期待するとともに事業計画との円滑な謁整を図ることができる。
 このような基本的な認識に立って、埋蔵文化財包蔵地の把握と周知は、各地域の歴史的な特性等に即しつつ、一方では地域間における著しい差異や不明確な状態を避けるという観点から、以下に示すような各項目についての、合理的な考え方に基づく一定の基準や仕組みによって行うことが必要である。

(2)埋蔵文化財として扱うべき遺跡の範囲
 何を埋蔵文化財とするかについては、次の1)に示す原則に即しつつ、かつ2)に示す要素を統合的に勘案するとともに地域における遺跡の時代・種類・所在状況やより細かな地域的特性等を十分に考慮して、各都道府県教育委員会において一定の基準を定める必要がある。
 1)埋蔵文化財として扱う範囲に関する原則
 何を埋蔵文化財とするかについての全国に共通する原則としては、当面、次のとおりとするのが適切と考えられる。
  1 おおむね中世までに属する遺跡は、原則として対象とすること。
  2 近世に属する遺跡については、地域において必要なものを対象とすることができること。
  3 近現代の遺跡については、地域において特に重要なものを対象とすることができること。
 2)埋蔵文化財として扱う範囲の基準の要素となる事項
 ア)主たる要素
  ○遺跡の時代 遺跡の属する時代の要素である。同じ種類の遺跡であってもその属する時代により歴史的意義は異なるものである。したがって、遺跡の属する時代は埋蔵文化財の範囲に関する基準の基礎的な要素であると考えられる。
  ○遺跡の種類 集落遺跡・生覆遺跡・祭祀遺跡・埋葬遺跡等、遺跡の種類の要素てある。遺跡の種類はその属する時代との組み合わせが埋蔵文化財の範用に関する基準の基本となるものと考えられる。
 イ)副次的要素
  ○遺跡の所在する地域 遺跡の所在する地域の歴史的な特性の要素である。その地域の歴史を特色づける遺跡であるかどうかは、埋蔵文化財の範囲を定める際に補完的に考慮することを要する要素であると考えられる。
  ○他の資料との補完関係 文献や絵図・民俗資料等、その遺跡に関する他の資料の有無・質・量の要素である。その遺跡に関わる他の資料の質・量は埋蔵文化財の範囲を定める際に補完的に考慮することを要する要素と考えられる。
  ○その他 遺跡の時代や種類によっては、遺跡の遺存状況やその歴史的意味、遺跡から得られる情報量の要素を加えて基準化することも考えられる。
 なお、埋蔵文化財とする範囲は、今後の発掘調査の進展による新たな発見や調査事例の蓄積、遺跡の評価の変化によって消長する性格のものであるので、上記の方法、原則及び基準は適宜合理的に見直すことが必要と考えられる。

(3)埋載文化財包蔵地の所在・範囲の把握
 埋蔵文化財包蔵地の所在・範囲の把握は、既往の開発事業に伴って行われた分布調査、試掘・確認調査やその他の発掘調査の成果に加えて、埋蔵文化財の所在状況を把握することを目的として、地方公共団体の全区域を対象として行う調査に基づくのが原則である。このような調査のうち最も一般的なものは分布調査てあるが、その実施に際しては可能な限り試掘調査を組み合わせて、遺跡の所在や範囲について確かな判断ができるよう努める必要がある。また、遺物の散布状況や地形の観察、地質・地形の形成過程を踏まえ、各時代の生活・生業に適した立地の想定、地形図・空中写真・地籍図・絵図等の資料等の総合的な活用も必要である。
 悉皆的な分布調査等に基づき埋蔵文化財包蔵地の所在・範囲が把握された後も、開発事業の多い地域における重点的な分布調査や、貝塚・古墳あるいは城跡といった特定の種類の遺跡を対象とする分布調査等を必要に応じて行い、それらの結果を統合することや範囲・内容を確かめる確認調査を計画的に実施し、個々の遺跡の範囲や内容を把握しておくことが、埋蔵文化財包蔵地の所在・範囲の精度を高める上で望ましいものと考えられる。
 このような埋蔵文化財包蔵地の所在・範囲を把握する事業は、地域に密着して状況を把握しやすい市町村が行うのが適切である。現在そのような体制の整っていない市町付や埋蔵文化財包蔵地の所在・範囲の把握や資料の整備が不十分な市町村については、当面、都道府県が自ら計画的な分布調査等を実施し、又は市町村が行うそれらの調査に関する指導・助言や援助を行う必要がある。国はそれらの事業について都道府県を通じて指導・助言と財政的な援助を行うことが必要である。
 地方公共団体にあっては、これらの事業を行うため、埋蔵文化財包蔵地の有無や広がりを専門的に判断することがてきるような体制を整備することか必要である。

(4)周知の埋蔵文化財包蔵地の決定
 埋蔵文化財包蔵地として周知する必要のあるものは、上記(2)及び(3)の原則に従い、客観的な根拠をもって所在と範用が確かめられるものでなけれはならない。このことからすると、周知の埋蔵文化財包蔵地は、市町村が分布調査等により把握した範囲に基づき、都道府県教育委員会が、関係市町村教育委員会との間で個別の遺跡の所在・範囲についての必要な協議・調整を行い、決定することとするのが適切である。

(5)周知の埋蔵文化財包蔵地の資料化
 上記(4)により都道府県教育委員会が決定した周知の埋蔵文化財包蔵地については、都道府県及び市町村において「遺跡地図」、「遁跡台帳」等の資料に登載し、それぞれの地方公共団体の担当部局等に常備し閲覧可能にする等による周知をより徹底する必要がある。この場合、埋蔵文化財包蔵地の区域は、類別として、実線で範囲として明確に示す必要がある。また、「遺跡地図」等の資料には、遺跡が完全に減失したり、本来的に存在しないことか明らかな区域、史跡に準するような重要な遺跡の区域、周知の埋蔵文化財包蔵地てあることは確認されていないが埋蔵文化財が所在する可能性のある区域等をあわせて表示しておくことも、開発事業者側、文化財保護行政側の双方にとって有効なものと考えられる。

(6)周知すべき埋戴文化財包蔵地の所在・範囲及びそれに関する資料の更新等
 周知の埋蔵文化財包蔵他の所在・範囲は、その決定後の新たな調査や開発事業の実施によって変動するものである。したがって、地方公共団体においては、常に最新の状況状祀を把握するとともに、所在や区域の範囲を更新していく必要がある。また、当然、都道府県と市町村が共有している資料も、最新の周知の埋蔵文化財包蔵地の状況を国民に提示できるよう適宜更新する必要かある。この場合、刊行物としての「遺跡他国」等は、広く配布する等の手段としては有効であるか、常時最新の情報を表示しておくためには限界があるため、随時表示内容を更新していくことに適した、加除訂正が可能な基本原図を用いる等、機能的な方法を工夫する必要がある。特に都市部等試掘・確認調査を含む調査件数がきわわて多く新しい知見が常時加わってくる状祝のところは、必要に応してコンピューターによる情報管理の導入も有効であり、将来的にはこれを全国約に拡大することも検討する必要があろう。
 また、都道府県と市町村においては、周知の埋蔵文化財包蔵地の所在・範囲に関する資料について、基本的には同じ内容の資料を共有するとともに、各々の保有又は入手している埋蔵文化財包蔵地に関する最新情報を相互に提供し合い、国民が各都道府県下の埋蔵文化財包蔵地の情報を都道府県、市町村のいずれの担当部局においても入手てきるようにしておく必要がある。各都道府県にあっては、このための有効な仕組みを構築し、随時より優れたものに改良していくことが必要であるし、将来的にはこれを全国規模に拡大することも考慮する必要がある。

 第2章 試掘・確認調査の意義と方法

 保護の対象となる周知の埋蔵文化財包蔵地の決定や開発事業と埋蔵文化財の取扱いの調整を行うため、あるいはその調整の結果必要となった記録保存のための発掘調査の範組を過不足なく適正に決定し、調査に要する経費・期間を可能な限り正確に算定するためには、埋蔵文化財の有無・所在範囲・性格・内容等を的確に把握することが不可欠である。埋蔵文化財行政の全般にわたって必要な、埋蔵文化財の有無、範囲、性格等の把握のためには、試掘・確認調査の実施がきわめて重要な意義をもつ。しかし、現状では、このような試掘・確認調査の意義が十分認識されておらず、その方法も必ずしも十分に確立されていないと考えられる。

 1 現状と課題

(1)試掘・確認調査の実施状況等
 現状では、試掘・確認調査の大部分は、開発事業が計画された地域について、事業計画との調整上の必要から行われるものであり、平成7年度に行われた試掘・確認調査の総件数は11,877件余りである。
 開発事業に伴う試掘・確認調査は、埋蔵文化財の有無の確認や埋蔵文化財包蔵地の範囲・性格等の概況を把握するために行われるものであり、具体的には、そのときの目的により、遺跡の有無、その属する時代・性格・範囲、遺構の密度、重要度、第一遺構面まての深さ、遺構面の数等の把握をめざして行われる。試掘・確認調査の方法は、この把握すべき目標に即してさまさまであるが、たとえば、埋蔵文化財の有無は坪掘り等のごく一部の発掘により確認できるが、埋蔵文化財の範囲・性格等の概況を知るにはより広範な発掘が必要であり、一般に、埋蔵文化財の有無の確認、範囲・性格等の把握を一連の調査て行う方式(以下「一段階方式」という。)と二つの工程に分け段階的に行う方式(以下「二段階方式」という。)が行われている。地方公共団体における状況を調査した結果によると、一段階方式を採用する地方公共団体は79%、二段階方式を採用する地方公共団体は17%である。
 埋蔵文化財包蔵地の概況を把握するためにどの程度の面積を発掘しているかの実態を地方公共団体の現況でみると、対象となる埋蔵文化財包蔵地の面積に対する割合で3%以下の地方公共団体は一段階方式のところ32%、二段階方式のところ26%、4〜6%の地方公共団体は一段階方式のところ28%、二段階方式のところ19%、7〜12%の地方公共団体は一段階方式のところで23%、二段階方式のところで18%となっている。
 試掘・確認調査の実態としては、開発事業件数そのものが膨大で、これを実施するための十分な体制が確保てきていないこと等により実施されていない場合、確認調査は行ったものの面積が少なかったため範囲や遺構の密度、重要度及び遺構面の数等の必要な事柄が把握されていなかった場合なとがあり、また、その結果、記録保存することとして本発掘調査が進んだ後に保存を要する重要な遺跡が検出されたり、本発掘調査を要する範囲とそれに係る費用と期間の見積の誤りが判明し、開発事業との再調整が必要となった事例もある。
 なお、このような目的で行われる試掘・確認調査を表す用語については、「試掘調査」、「確認調査」という二種の呼称が多いが、実態上はこの他にも地方公共団体によって多様な用語が使用されており、それぞれの用語の意味内容が異なることもあって、開発事業との調整の場等において混乱を招くおそれがある。

(2)試掘・確認調査の方法
 試掘・確認調査の実施方法は、遺跡の種類やその立地・環境のあり方によって異なるが、現状では、遺跡の種類・立地・時代等に対応した最も適切な試掘・確認調査の方法が必すしも確立していない。そのため、遺跡が低湿地に立地し遺構面や遺物包含層が地下深くにある場合や、窯跡・製鉄炉跡等のように斜面地に立地する場合、ローム層中に遺物が包含される旧石器時代の場合等は、台地上に立地する通常の遺跡を対象とする場合と比べて、その有無や概況を把握することは困難な状況にある。

 2 改善方策

(1)試掘・確認調査に関する基本的な考え方
 法律の対象として国民に保護を求める埋蔵文化財の所在・範囲等を把握し、提示すること、開発事業と埋蔵文化財の取扱いの調整に際して、1現状保存を必要とする重要な遺跡の有無や範囲の確定、2本発掘調査を要するか否か及び要する際の範囲の特定、3本発掘調査に要する期間・経費等の見積等を行うことのためには、埋蔵文化財の内容、性格等を的確に把握しておかなければ適切な判断をすることができない。また、後述(第4章)の遺跡上の埋立、盛土に際しても、確認調査が必要である。通常、地下に埋もれている埋蔵文化財についてその所在・範囲、内容等を把握するためには地表面の観察のみでは不十分であり、また、近年、開発されている直接発掘することなく地下の状況を探る科学的探査等の手法は、特定の条件下ではきわめて有効てあるが、あらゆる条件下で使用されるためには、さらなる開発・改良を進めることが必要がある。このため、現状では埋蔵文化財保護行政を進めるあらゆる場面でそれぞれの目的に応じて試掘・確認調査を行うことが最も有効な方法であり、きわめて重要な意味をもつものである。
 したがって、地方公共団体においては、このような試掘・確認調査の重要性・有効性を十分に認識し、これを埋蔵文化財の保護や開発事業との調整等の仕事の中に的確に位置づけるとともにその十分な実施を確保できる職員の配置等の体制整備を図る必要がある。また、国はそのために必要な指導、助言と財政的な援助を行うことが必要である。

(2)試掘・確認調査の内容についての留意事項
 埋蔵文化財保護行政の各段階において必要とされる具体帥な知見・情報はさまざまであり、それを得るための試掘・確認調査もそれに応じて内容、規模等を異にする。開発事業との調整の場面においては、一般的には、初期の段階においては埋蔵文化財の有無が大きな問題となり、その後の段階においては現状保存を要する重要な遺跡の有無や範囲の決定、現状保存できない遺跡に係る本発掘調査の範囲の決定やその正確な期間・経責等の見積に不可欠な遺構面積、遺構面まての深さ、遺構と遺物の分布範囲・密度、遺跡の時期、種類・性格等を把握する必要が出てくる。
 このため、具体的な試掘・確認調査を計画する際には、個別の案件の状況を踏まえながらそれそれの地域的な特性や遺跡の立地・種顎、あるいは開発事業の規模等を考慮して、目的とする情報・資料が効果的、効率的に得られるよう、一段階方式でやるか二段階方式とするかを含め、調査の面積や深さ、方法等を過不足なく柔軟な判断に基づいて設定する必要がある。なお、これまでの実績や研究等によると、たとえば、台地上の比較的単純な遺跡の場合には、埋蔵文化財包蔵地の範囲の10%について確認調査を行えば、本発掘調査の範囲の決定に必要な情報を得ることができるとされている。
 用語については、「試掘調査」は表面観察等からだけでは判断できない場合に行う埋蔵文化財の有無を確認するための部分的な発捉調査、「確認調査」は埋蔵文化財包蔵地の範囲・性格・内容等の概要までを把握するための部分的な発掘調査とし、両方の目的で一連の調査を行う場合を「試掘確認調査」と呼称することにより、開発事業者との協議・調整に際しての混乱を避けることが望ましい。

(3)試掘・確認調査方法の研究・開発
 低湿地・斜面地に立地する遺跡、遺構面の深い旧石器時代の遺跡等、現状ではその有無の確認や概況の把握のための手法が確立していないものについては、効率的かつ安全に必要な知見・情報を得るための調査手法や掘削機器の研究・開発が必要である。この場合、確認調査と本発掘調査の事例を集成して遺跡の種類とその立地条件等を比較検討することによる、遺構を最も効率的に把握するためのトレンチの設定方法等の開発や古環境に関する地質学上の成果をとり入れること等、広く関係学界を含めて研究・開発を推進する必要がある。

第3章 埋蔵文化財包蔵地のうち本発掘調査を要する範囲の特定

 周知の埋蔵文化財包蔵地における開発事業と埋蔵文化財の取扱いについての調整の結果、現状保存することができないこととされた遺跡については、本発掘調査を行い、その記録を保存することとされている。この場合、本発掘調査を行うかどうかは、第1にその工事区域が、地下遺構の状況、その種類・性格等の観点で本発掘調査を必要とする範囲に含まれるかどうか、第2に工事の内容が地下遺構に与える影響の観点で本発振調査を必要とする場合に当たるかどうかを判断して定める必要がある。第3章においては、前者の観点について検討することとする(後者については第4章で検討する。)。
 本来、埋蔵文化財包蔵地にはさまさまな種類の遺跡や遺物が多様なあり方で所在しているものであり、また、現状では、周知の埋蔵文化財包蔵他の範囲は、必ずしも試掘・確認調査により地下遺構の存在を確認した上で定めたものではないことから、開発事業との調整に際しては、本発掘調査を要する範囲は事業の行われる周知の埋蔵文化財包蔵地の区域のうちから埋蔵文化財の記録保存の目的に即して過不足のない適切なものとして特定する必要がある。
 そのような本発掘調査を要する範囲の特定は、各地方公共団体間に著しい差異のないように行われる必要がある。

 1 現状と課題

(1)本発掘調査を要する範囲に関する基準
 本発掘調査を要する範囲は、個々の事業ことに、それぞれの地方公共団体の判断によって特定されているが、これについての全国的に共通する基本的な考え方や原則はなく、また、地方公共団体単位でみても本発掘調査を要する範囲を特定するための明文化した基準をもっているところは、約4%にとどまる。一方、このような基準を作るべきである、あるいはできれは作るべきであるとする地方公共団体は66%に達することから、多くの地方公共団体では、明文化した基準の必要性を認めながらも、それには至っていない状況にあると考えらりれる。

(2)本発掘調査範囲の特定の現況
 本発掘調査を要する範囲は、地域性、遺跡の時代・性格、遺構の残存状況等を統合的に勘案して定める必要があるが、それらの要素を具体的事業に適用するについての基準となる考え方がない場合、各地方公共団体や担当者によって、本発掘調査の範囲に、地域的な特性等に伴う差異を越える異同が生ずることがある。特に本発掘調査を要する範囲が大規模となる田畑や近世の都市・集落の遺跡等の事案が増加するに従って、これまでこの種の遺跡の調査が進展している地域とそうでない地域との間で、取扱いに大きな差異か生ずるおそれがある。
 同一地方公共団体内あるいは同一都道府県内の市町付相互問での判断の大きな差異は避けるべきであり、また、本発掘調査を要する範囲や本発掘調査のための経費等の根拠の客観性、合理性を確保するためにもとこまでを本発掘調査対象範曲とするかについての一定の標準が必要である。

 2 改善方策

(1)本発掘調査を要する範囲の特定に関する基本的な考え方
 周知の埋蔵文化財包蔵地のあり方からすれば、その区域全域を本発掘調査の対象とすることが必ずしも適切でない場合があり、開発事業との調整に際しては、現状保存の要否とともに本発掘調査を必要とする範囲を特定することが必要である。そして、この本発掘調査を要する範囲の特定は、各地方公共団体や担当者によって著しい差異が生ずることを避けるため、一定の標準に従って行われる必要がある。
 また、現在、開発事業に伴う埋蔵文化財の取扱いは、本発掘調査の要否を含めて実質的に都道府県教育委員会が事業者を指導するしくみとなっていることから、個々の事業に係る本発掘調査の範囲の特定は、一定の標準に即して、都道府県教育委員会が行うこととするのが適切である。この場合、その範囲の特定は、試掘・確認調査等に基づく遺跡の性格・内容の解釈や遺跡の構造についての知識、経験に基づき、個々の埋蔵文化財包蔵地の状況に応じて行われる必要があることから、都道府県教育委員会は、原則として市町村教育委員会の意見(試掘・確認調査等が市町付以外の調査機関によって行われた場合にあってはその結果報告に基づく市町村教育委員会の意見)を聞き、協議・調整の上行うこととする必要がある。

(2)本発掘調査を要する範囲の特定に関する標準
 本発掘調査を要する範囲の特定に関する標準は、次のとおりとするのが適切である。
(ア)遺構の所在する場所にあっては、遺構が単独の場合は個々の遺構のみを範囲とするが、遺構が歴史的な意味あいをもつ群をなす場合は群全体の範囲(外側の遺構をを順次結んで囲まれる)とする。また、ごく少数の遺構が互いに離れて存在する場合は、各遺構のみを範囲とするかこれらを含む区域全体を範囲とするかを、それらの遺跡の時代や崖史的悪昧・性格等を考慮して判断する。
 遺跡の中の空閑地については遺跡の時代・性格等を考慮し、広場等歴史的意味があると考えられる場合は、原則として遺構の範囲に含める。祭祀遺物が分布する区域あるいは廃奏された遣物が集積する区域等のように、顕著な遺構がなくとも出土状況に意味のある遺物が所在する範囲は、遺構に含める。
(イ)遺物包含層のみの場合は、遺物の出土状況に基づいて、一定の量の遺物がまとまって所在する区域を範囲とし、遣物が散漫に所在する区域は範囲から除外する。ただし、出土状況の判定に当たっては、地域性や遺跡の時代・性格等を十分に考慮する必要が為る。たとえば旧石器時代、縄文時代草創期等本来遺物が多量に出土することのまれな時代の場合、遺物の出土が散漫な区域であっても地域や時代性等の特性を考慮して範囲に含めるかどうかを判断する。
(ウ)田畑及び近世の都市・集落等を構成する一部の遺横等、規格性のある区画や類似する構成・性格の遺構が連続しており一部の遺構のあり方から全体が推定できる場合、現代の市街地との重複により著しく遺構か損なわれている場合、古文書等の考古学的情報以外の資料が豊富に残されている場合にあっては、地域性、遺構の残存状況、発掘調査で得らりれる情報の内容、考古学関係以外の資料から得らりれる情報等の諸要素を総合的に勘案し、本発掘調査を要する範囲に含めるかとうかを判断するものとする。
 なお、この標準は、今後、発掘調査成果の蓄積、研究の進展等に照らして、適宜見直しを図る必要がある。

第4章 本発掘調査を要する場合の原則及びその考え方

 前章においては、周知の埋蔵文化財包蔵地における区域の遺跡のあり方等の観点からの本発掘調査を必要とする範鶉の特定について検討したが、本発掘調査を必要とするかとうかは、このはかに、開発事業が埋蔵文化財に及ぽす影響の観点からも判断する必要があることは、前章において述べたとおりである。
 どのような工事内容の場合に本発掘調査を行う必要があるかについては、文化庁は、都道府県教育委員会あての通知によりその基本的な考え方を示しているが、その内容は必ずしも具体的ではなく、これを実際の取扱いに当てはめるに際しては、各地方公共団体間に差異が生じている。本発掘調査を必要とするかどうかについての各地方公共団体問の判断の差異は、開発事業者の負担内容に関わる事柄でおり、可能な限り避ける必要がある。

 1 現状と課題

(1)文化庁の昭和60年通知
 文化庁では、昭和60年12月20日付け及び平成5年11月19日付けの各都道府県教育委員会あての「埋蔵文化財の保護と発掘調査の円滑化について」の通知により、本発掘調査を必要とするのは次の三つの場合である旨の原則(以下「三原別」という。)を示した。
 1工事による掘削が埋蔵文化財に及ぶ場合
 2恒久的な建築物、道路その他の工作物を設置する場合
 3盛土、一時的な工作物の設置等で、それが埋蔵文化財に影響を及ぼすおそれがある場合
 本発掘調査が必要か否かについての三原削が準拠している考え方を整理すると、原則の1は、掘削により埋蔵文化財が損壊するため、原則の2は、埋蔵文化財を損壊することはないものの恒久的な建築物、道路その他の工作物の設置によって、相当期間にわたって当該埋蔵文化財と人との関係が断たれ、その埋蔵文化財が損壊したのに等しい状能心となるため、原則の3は、盛土による土圧等による埋蔵文化財の変形、損傷などの影響が生ずるために、それぞれ記録保存の措置を必要とするとされているものである。
 この三原則を実際の事業に当てはめる段階における問題点としては、原則の1の内容は明確であるが、原則の2の「恒久的な建築物、道路その他の工作物」と原則の3の「埋蔵文化財に影響を及ぽすおそれのある場合」については、その具体約な内容が必ずしも明らかでないことが挙げられる。
 このため、平或2年度から、関東甲信越静ブロックをはじめとして全国の各地方ブロックごとに、「恒久的な建築物、道路その他の工作物」及び「埋蔵文化財に影響を及ぽすおそれのある場合」の具体的な適用基準についての検討が行われ、現在、関東甲信越静ブロックと九州・沖縄ブロックでは基準を策定済み、その他のブロックでは検討中となっている。なお、文化庁では、平成5年11月19日付けの都道府県教育委員会あての「埋蔵文化財の保護と発施調査の円滑化について」の通知により、各地方ブロックごとにこのような基準を策定することを求めている。

(2)本発掘調査を行うかどうかの取扱いの現状
 三原則のうちの2の「恒久的な建築物、道路その他の工作物」と3の「埋蔵文化財に影響を及ぼすおそれのある場合」について各地方公共団体における適用の状況を調査した結果、概ね次のとおりとなっている。

(ア)「恒久約な建築物、道路その他の工作物」について
○道路等 道路については、掘削が及ばない部分も発掘調査することとしている地方公共団体は、高速道路・国道74%、都道府県道73%、市町村道72%であり、国道・地方道等の種別による取扱いの差異は顕著ではない。高速道路・国道に伴う側道、路側の緑地帯についても同様に扱う傾向がある。高架構造の場合の橋脚以外の部分についても 本発掘調査をすることとしている地方公共団体は70%である。ただし、工事用仮設道路や私道については、掘削が及ばない部分を本発掘調査の対象としている地方公共団体は50%前後と、一般道路の場合と比べて少ない。農道については、掘削が及はない部分も本発掘調査の対象としている地方公共国体は、広域農道については65%、それ以外の農道で舗装されるものについては62%、舗装されないものについては49%となっている。
○河川・ダム 河川敷・堤防における工事については、65%の地方公共団体が、掘削が及ばない部分についても本発掘調査を行うこととしている。ダムについては、異常増水時にのみ水没することとされている区域を、全域本発掘調査することとされているところは20%、本発掘調査の対象としないこととされているところは11%である。
○駐車場 舗装の有無及び地下部分の構造により取扱いに差異があり、掘削が及はない部分についても本発掘調査することとしている地方公共団体は、本格舗装の場合にのみ調査することとしているところ56%、簡易舗装の場合にも調査することとしているところ41%、砂利敷きの場合まで調査することとしているところ29%である。
○建物 その構造により取扱いに差異がある。掘削が及ばない部分をも本発掘調査することとしている地方公共団体のうち、鉄筋コンクリート造について調査することとしているところ67%、鉄骨造についても調査することとしているところ64%、木造モルタル造まで調査することとしているところ54%となっている。

(イ)「埋蔵文化財に影響を及ばすおそれのある場合」について
○盛土 埋蔵文化財に影響を及ぽすおそれのある盛土の厚さの数値基準をもっている地方公共団体は63%であり、本発掘調査を要する盛土の厚さを1メートル以上としている地方公共団体は10%、2メートル以上としているところは38%、3メートル以上としているところは5%である。

(ウ)保護層について
 工事の施工に際して埋蔵文化財を保護するための一定の厚さの土層、樹脂等による緩衝層(以下「保護層」という。)を確保することができないときは本発掘調査を行うこととしている地方公共団体が26%あり、その厚さは20〜30センチ(9%)、30〜50センチ(48%)、50〜60センチ(14%)などとなっている。
 以上を総合すると、埋蔵文化財に掘削が及ばない区画を本発掘調査の対象とするか否か等の本発掘調査面積に大きな影響を与える事柄について、各地方公共国体間でかなりの差異が生じているといえる。

(3)本発掘調査を必要としない場合の取扱いの現状
 開発事業の工事の規模・内容と対象地内の埋蔵文化財の内容によっては、本発振調査の必要はなくても他の措置を講ずる必要がある場合がある。これに関して、文化庁は、昭和53年9月25日付けの都道府県教育委員会あての「埋蔵文化財関係の事務処理の迅速適正化について」の通知において、工事による掘削・盛土が、1遺構等の所在する層位に達しない部分で行われる等、地下遺構等に影響を与えないと考えられる場合、2既に行われた工事その他による遺構等の損壊の範囲内で行われ、新たな地下遺構等への影響が生じないと考えられる場合、3盛土の厚さが薄く、地下に対する加圧の程度その他の観点から、地下遺構等に影響を生じないと考えられる場合については、工事の実施に際して地方公共同体の専門職員が立ち会うこと(「工事立会」と略称)又は埋蔵文化財に影響を及ばすことのないよう慎重に工事を行うこと(「慎重工事」と略称)のいずれかの取扱いを行うよう指示している。
 平成8年度の周知の埋蔵文化財包蔵地における工事の届出及び通知に対する都道府県の指導は、合計29,817件で、そのうち本発掘調査を求めるものは12,344(41%)、工事立会を求めるものは11,030件(37%)、慎重工事を求めるものは6,409件(32%)となっている。
 工事立会の場合は、工事期間中地方公共国体の専門職員が適宜立ち会うのが一般的であり、慎重工事の場合は、職員は立ち会わず、遺物・遺構等が出土した場合には連絡を求め、あるいは工事期間中最低一回程度は現地を確認するなどの対応をとることとしている地方公共団体が多い。

(4)課題
 本発掘調査を必要とするか否かの判断の要素の一つである、工事が埋蔵文化財に与える影響の度合いについては、その判断の基準となる三原則に個々の事案を当てはめるには具体的でない部分があり、かつ、そのために実際の処理上地方公共団体間に相当の差が生じており、この状況は改善する必要がある。
 また、発掘調査は、それによって埋蔵文化財の内容を明らかにすることができる反面、対象の遺跡を再現できない状態に改変・破壊してしまうものであることを考慮し、記録保存の範囲を最小限におさえ、たとえば、盛土の下に保存される埋蔵文化財については本発掘調査をひかえること等も併せて検討する必要がある。
 工事立会及び慎重工事の措置を執る場合とその対応についても基本的な考え方を示すことが望ましい。

 2 改善方策

(1)本発掘調査を要する場合についての基本的な考え方
 どのような工事内容の場合に本発掘調査を要するかについては、現行の三原則の基本的な考え方を維持しつつ適宜必要な見直しを行い、また、その当てはめに際して各地方公共団体間に地域的な特性を超える大きな差異を生じないよう、具体的な標準を示すことが必要である。
 また、この場合、遺跡等が破壊されてしまうのではなく、たとえば盛土の下に残っていく場合等については、本発掘調査を合理的な範囲にとどめ、調査の期間や経費の節約と埋蔵文化財の将来への保存(必ずしも好ましい形能とといえないが)の観点も勘案する必要があろう。
 このような標準は、次に示すとおりとするのが適切であると考えられるが、その各項目の中には、実際の適用に際しては地域的な特性や従前の取扱いとの関連においてさらに細目的な基準を必要とするものがあると考えられるので、それらについては都道府県教育委員会が、各地方ブロックで策定され、又は現在検討中の基準を踏まえる等により工事の種別ごとの取扱いや数値の適用基準を定めることとするのが望ましい。
 なお、これらの標準及び適用基準に基づく具体的な事業ごとの本発掘調査を必要とするかどうかの判断(後述(2)の工事立会等を要するかどうかの判断も含む。)は、前章で述べたところと同様、都道府県教育委員会が市町村教育委員会の意見を聞き、両者協議・調整の上、行うこととするのが適切である。
 本発掘調査を要する場合の三原則についての標準
 三原則の各項目の意味・内容及び適用についての基本的な考え方は次のとおりである。
 ア)三原則の1について
 工事により埋蔵文化財が掘削され、破壊される場合には本発掘調査を行うものとする。遺構面に直接掘削が及ばない場合であっても、一定の保護層が確保できない場合には本発掘調査を行うこととするかどうか、及び保護層の厚さをどの程度とするかについては、各都道府県教育委員会において適用基準を定めることができる。
 イ)三原則の2について
 従来、「恒久的な建築物、道路その他の工作物を設置する場合」は本発掘調査の対象とされているが、工事の性質・内容に即して当該の工作物の設置、盛土の施工後であっても必要な場合は発掘調査が可能か否かの観点から、本発掘調査の必要性の有無については以下のとおりとする。

○道路等 次に掲げるもの以外は、本発掘調査の対象とする。
(ア)一時的な工事用道路、道路に付帯した緑地部、歩道等
(イ)高架・橋梁の橋脚を除く部分
(ウ)道路構造令の適用を章けない農道、私道
(エ)道路の拡幅・改修の場合の既存道路部分
 ただし、上記のものについても、各都道府県教育委員会の定める適用基準により、施設としての将来的な利用計画及び地下埋設物・付帯施設の設置計画の有無、内容等を考慮して本発掘調査の対象とするか否かを定めることができる。
  鉄道については、道路に準じて取り扱う。

○ダム・河川 ダムについては堤体及び貯水池、河川については堤防敷及び河川敷の内の低水路は本発掘調査の対象とする。ただし、ダム貯水池のうちの常時満水位より高い区域と河川の堤防敷間の高水敷については、各都道府県教育委員会の定める適用基準により、施設としての将来的な利用計画及び地下埋設物・付帯施設の設置計画の有無、内容等を考慮して本発掘調査の対象とするか否かを定めることができる。

○恒久的な盛土・埋立 盛土・埋立については、その施工後の状況が、必要な場合は発掘調査か可能なものかどうか等の観点で、個々の事業に即し、本発掘調査か必要か否かを定めることとする。ただし、各都道府県教育委員会の定める適用基準により、あらかじめ盛土等の厚さの標準を定めておくことができるものとする。この場合、現在の掘削工法の限界、従前の例等から盛土等の厚さの標準は2〜3メートル程度が適当である。
  なお、野球場・競技場、駐車場等についても、各都道府県教育委員会の定める適用基準により、施設としての将来的な利用計画及び地下埋設物・付帯施設の設置計画の有無、内容等を考慮して本発掘調査の対象とするか否かを定めることができる。

○建築物 建築物については、規模・構造・耐用年数等において上記の工作物に比べ比較的簡易なものが多いため、原則として本発掘調査の対象とはしない(ただし、その規模・構造・耐用年数・利用計画等の観点で、各都道府県教育委員会の定める適用基準により、本発掘調査の対象とするか否かを定めることができる。

 ウ)三原則の3について
 工事による掘削が埋蔵文化財に直接及ばない場合や一時的に工作物を設置する場合であっても、工作物や盛土等の重さによって、地下の埋蔵文化財に影響を及ぼすおそれがある。このような場合には、本発掘調査を行うことが必要であるが、当該工事等が埋蔵文化財に影響を及ぽすおそれがあるかどうかは、埋蔵文化財の所在する地域ことの地質・土壌条件と工事の規模等を勘案し、個々に判断せざるを得ないものである。しかしながら、同一地域の同規模の工事に対し、その判断に著しく差異が生じることは適切ではなく、各都道府県教育委員会において、具体的な工事の規模(盛土の厚さ等)や保護層の要否とその程度についての適用基準を定めることが望ましい。

(2)工事立会・慎重工事についての基本的な考え方
 「工事立会」、「慎重工事」の措置を必要とする場合とその内容は、次のような基本的な考え方によるのが適切である。
 1「工事立会」を求める場合について
 対象地域が狭小で通常の発掘調査が実施できない場合及び工事が埋蔵文化財を損壊しない範囲内で計画されているが現地で状況を確認する必要がある場合には、工事の実施中地方公共団体の専門職員が立ち会うこととする。なお、その際、遺構が確認される等のことがあった場合はその記録をとる等適切な措置を講ずることとする。
 2「慎重工事」を求める場合について
 遺構の状況と工事の内容から、本発掘調査、工事立会の必要がないと考えられる場合は、埋蔵文化財包蔵地において工事を行うものであることを認識の上慎重に施工するとともに、遺構・遺物を発見した場合は地方公共団体と連結をとるよう求めることとする。

(3)留意事項等
 ア)盛土等によって地下に埋蔵文化財を残す場合の留悪事項
 盛土や工作物等の下に本発掘調査を行わないで埋蔵文化財を残す場合、その施工後は、当該地は、周知の埋蔵文化財包蔵地であることにかわりはないとしても、地形・地現が大きく変化し、試掘・確認調査を行うこともかなり困難になる。したがって、盛土等の処理をする場合には、地下に残る埋蔵文化財の位置と範囲、遺跡の内容・性格等を記録しておく必要があり、そのために事前にその目的に即した確認調査等を行うこと等が必要である。
 また、盛土等の処理に関する協議・調整、それに伴う踏査、試掘・確認調査及び工事の具体的な範囲・内容等の記録は重要な資料となることから、これらを機能的に保管・管理する仕組みと体制を整備するとともに、将来、別の開発事業に際してその存在を見落とされるなどのことのないよう、関係事業者、土地所有者等に周知徹底する措置も必要である。
 盛土によって地下に埋蔵文化財を残す場合等の確認調査や保護層の確保等の措置については、国による財政的補助の方途を講ずることが望ましい。
 イ)本発掘調査を要する場合についての基本的な考え方等の見直し等
 本発掘調査を要する場合についての三原則、それに関する標準及び適用基準は、埋蔵文化財保護に関する理念の変化や技術的な進歩等に伴って変更されていく性格のものであるから、今後、適宜、適切に検討・見直しを行っていく必要がある。 また、盛土等によって地てに埋蔵文化財を残すことをその保存の立場から積極的に位置づけ、保存の手法の一つとして確立するために、盛土等の埋蔵文化財への影響の程寝・内容等の科学的な把握方法、有効な工法等に関する研究、技術開発を進める必要がある。

参考資料

目 次
1 調査研究委員等名簿
 1 委員名簿
 2 協力者名簿
2 調査研究委員会等の審議経過
 1 委員会の経過
 2 協力者会態の攫過
3 埋戴文化財の把握と開発直前の発掘粥査に至るまでの取扱いに関する実態調査集計結果
 1 埋蔵文化財として保護の対象とする範囲
  (1)埋蔵文化財として扱う遺跡の時期
  (2)中近世遺跡の取扱い
  (3)近代遺跡の取扱い
 2 遺跡地図の整備と埋蔵文化財包蔵他の把握
  (1)遺跡地図の整備状掘
  (2)埋蔵文化財包蔵地の把握
  (3)遺跡地図の精度向上のための確認調査
  (4)遺跡地図の活用状況
 3 試掘・確認調査の実施と取扱い判断
  (1)試掘・確認調査の件数
  (2)有無確認及び試掘・確認調査の基本的手順
  (3)試掘・確認調査の実際
  (4)発掘調査・工事立会・慎重工事の指示等の判断
  (5)試掘・確認調査に基づく本発掘調査範鮪の決定
 4 本発掘調査を要する場合め考え方
  (1)道路
  (2)土地区画整理事業
  (3)農業基盤整備事業
  (4)その他の面造域工事
  (5)河川改修・ダム
  (6)建築物
  (7)盛土等による埋蔵文化財に影響を及ぼすおそれかある場合の判断

【個人名の記載やグラフの取扱いなどの問題があるので、とりあえず省略します】


縄文学研究室トップ法令集トップ管理人:Nakamura Kousaku
E-mail:info@jomongaku.net