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【1995年】
【『考古学研究』43-1(1996)より】
【平成7年11月 総務庁行政監察局より文部省あて】

芸術文化の振興に関する行政監察結果報告書[抄]

1.芸術文化の振興 【略】
2.日本芸術文化振興会の事業 【略】
3.文化財の保護
 (1)史跡名勝天然記念物の実態把握の充実と指定地域等の見直し 【略】
 (2)重要文化財の公開等に関する規制の見直し 【略】
 (3)権限委任の推進 【略】
 (4)重要文化財の保存問題の適正化 【略】
 (5)埋蔵文化財の事務処理体制等の見直し

ア 発掘調査の迅速化

 貝塚、古項、住居跡などの遺跡や、土器、石器などの遺物が土地に埋蔵されている場合、これを埋蔵文化財といい、埋蔵文化財が包蔵されている土地を埋蔵文化財包蔵地というとされている。埋蔵文化財包蔵地は、従来からその存在が知られていたり、地表で識別できる場合もあるが、周知されている埋蔵文化財包蔵地(以下「周知の埋蔵文化財包蔵地」という。)は、平成5年3月現在、全国に約37万か所あるとされている。
 文化財保護法第57条の2においては、土木工事その他埋蔵文化財の調査以外(以下「土木工事等」という。)、の目的で、周知の埋蔵文化財包蔵地を発掘しようとする者は、発掘に着手しようとする日の60日前までに(都道府県教委を経由して)文化庁長官に届け出なけれぼならないこととされ、この届出を受けた文化庁長官は、埋蔵文化財の保護上特に必要があると認めるときは、発掘に関し必要な事項を指示することができることとされている。また、文化財保護法第57条の3において、国の機関地方公共団体等(以下「国の機関等」という。)が土木工事等の目的で発掘しようとする場合には、当該国の機関等は、当該発掘に係る事業計画の策定に当たって、あらかじめ、文化庁長官にその旨を通知しなければならないこととされており、当該通知を受けた文化庁長官は、当該通知に係る事業計画の実施に関し、埋成文化財の保護上必要な勧告をすることができることとされている。文化庁長官の指示又は勧告の内容の実態は、 1)慎重な土木工事等の実施、 2)土木工事等の実施に当たっての地方公共団体職員の立会い、 3)土木工事等の着手前の発掘調査の実施、 4)土木工事等の計画の一部変更による遺構等の全部又は一部の現状の保存のいずれかとなっている。これらのうち、上記3)の発掘調査の実施の指示又は勧告があった場合には、発掘調査を行うこととなるが、通常事業者は発掘調査を行う能力を有していないことから、都道府県教委、市町村教委又は埋蔵文化財の発掘を専門的に行うために設立された財団法人等に依頼して実施している。
 平成6年度において、周知の埋蔵文化材包蔵地における土木工事等の届出の件数は全国で2万4,513件あり土木工事等に作う発掘調査の届出等の件数は9,494件となっている。
 近年、国土開発の進展に伴い、埋蔵文化財の保護と開発事業の実施との適切な調整とともに、発掘調査の迅速化が大きな課題となっている。
 今回、18都道府県教委及び46市町村教委(市長部局で文化財保護行政を担当している1市を含む。以下同じ。)の埋蔵史化財に係る発掘調査の事務処理状況及び発掘調査体制について調査した結果、以下のような状況がみられた。

(ア) 発掘調査の事務処理状況

@ 周知の埋蔵文化財包蔵地において民間事業者による土木工事等が行われる場合、通常、 1)計画段階における都道府県教委又は市町村教委との事前協議、 2)文化財保護法に基づく文化庁(都道府県教委経由)への土木工事等の届出、 3)工事杓答等に応じた文化庁(都道府県教委経由)からの指示、4)文化財保護法に基づく発掘調査の文化庁への届出、 5)発掘調奄の着手、 6)発掘調査の完了という手順により一連の手続きが行われる。
 調査した都道府県教委において民間事業者による土木工事等の届出があったもののうち、平成5年4月から9月末までに発掘調査が指示された83件の平均事務処理期間についてみると、1)事前協議から土木工事等の届出までが、149.2日、 2)土木工事等の届出から発掘調査の指示までが24.7日、3)発掘調査の指示から発掘調査の届出までが16.5日 4)発掘調査の届出から発掘調査の完了までが80.8日であり、事前協議から発掘調査の完了までの総処理期間は271.2日となっている。

A 発掘調査に係る事務処理期間が長期化している例をみると、次のとおり、事業者から発掘調査を依頼された市町村教委の発掘調査体制の不備に起因するものが多くなっている。
 1 事前協議を受けた市町村教委が、当該教委の発掘調奄体制からみて発掘調査の実地時期が1年ないし2年先となることから、民間事業者に事前協議の段階で土木工事等の届出を遅らせるようにしたこと等により事前協議の開始から発掘調査の完了まで400日以上を要している例(12件)
 2 土木工事等の届出を受け、都道府県教委は市町村教委を通じ民間事業者に発掘調査の実施を指導したが、市町村教委においては、過年度に届出を受けた未着手の発掘調査を優先させたことから、当該年度に届出があった事案について、事前協議から発掘調査の着手までに300日前後の期間を要している例(4件)
 3 市町村教委において、埋蔵文化財担当の専門職員が不足していることから、発掘調査の前段階である試掘調査の終了後も発掘調査が実地できず、民間会社の協力を持て実施することとなったため、事前協議から発掘調査の完了までに400日以上の期間を要している例(2件)

B このため、 1)共同住宅の建設が遅れ、土地の購入費(9億円)に対し1年間の金利負担4,500万円の支出を余儀なくされている例、 2)分譲住宅の売出しが1年2か月遅れた例、 3)共同住宅の建設等を中止した例等がみられる。

(イ)都道府県教委及び市町村教委の発掘調査体制

@ 文化財保護法においては、発掘調査の実施等埋蔵史化財に関する事務処理について都道府県教委と市町村教委との分担は示されていないが、調査した都道府県教委と市町村教委との分担の状況をみると、 1)国及び都道府県の事業については、おおむね都道府県教委が分担し、市町村及び民間の事業については、おおむね市町村教委が分担するとしているものが15教委、 2)複数の市町村にまたがる事業について、又は市町村教委の体制に応じて都道府県教委が分担するとしているものが3教委となっている。

A 調査した都道府県教委における発掘調査の実施主体をみると、都道府県教委の職員のみで行っているものが7教委、財団法人に行わせているものが6教委、都道府県教委と公益法人が共同で行っているものが4教委、財団法人と仕意団体(適跡調査会など)が共同で行っているものが1教委となっている。
 また、埋蔵文化財担当の専門職員数を全国ベースでみると、財団法人の職員を含め、平成元年度は、平均37.8人であったものが、6年度は平均47.9人となっており、その体制は逐次整ってきている。

B 一方、調査した市町村教委における発掘調査の実施主体をみると、市町村教委の職員のみで行っているところが27教委、財団法人、民間会社あるいは任意団体等に行わせているものが8教委、市町村教委と任意団体が共同で行っているものが10教委、市町村教委と財団法人が共同で行っているものが1教委となっている。また、埋蔵文化財担当の専門職員数をみると、平成6年5月現在、市町村教委職員のみの平均は5.9人、財団法人の職員を含めた平均は7.0人となっているが、最も多いもので35人であるのに対し配属していないものもあるなど、市町村教委によりかなり差がみられる。
 なお、全国ベースでみると、平成6年度において埋蔵文化財担当の専門職員を配置している市町村数は1,259市町村であり全国の6割以上の市町村で配置されていない状況にある。

(ウ) 発掘調査の迅速化

 発掘調査の迅速化を図るためには、上記のような状況からみて発掘調査職関でもある市町村教委及び都道府県教委の体制の充実を図ることのほか、次のような制度上又は運用上の工夫を検討する余地があると認められる。

@文化財保護法第103条においては、土木工事等の文化庁長官への届出及び通知(第57条の2第1項及び第57条の3第1項)、文化庁長官による発掘調査に関する必要な指示及び勧告(第57条の2第2項及び第57条の3第4項)等文化財に関するすべての事務処理は、都道府県教委を経由するものとされ、その際、都道府県教委は必要な意見(副申)を付して進達しなければならないとされており、都道府県教委の行政庁としての役割は明確となっている。
 一方、市町村教委は、文化財保護法第98条の2第1項に基づき「埋蔵文化財について調査する必要があると認められるときは発掘を施行することができる」こと及び同条第3項に基づき「発掘に関し、事業者に対し協力を求めることができる」こととされていることから、発掘調査の実施主体としての位置付けはなされているものの、行政庁としての役割は必ずしも明確になっていない。しかし、体制が整備されている政令指定都市等においては、事業者からの土木工事等に係る事前協議及び届出等を受けて、当該事業者との調整等を行い、事実上埋蔵文化財の取扱いについて判断し、形式的に都道府県教委に進達しているもの、都道府県の分担に属する事業について提出機関としての意見を付しているもの等もある。このため、埋蔵文化財の保護体制が整っている政令指定都市の教委については、文化財保護法上において埋蔵文化財に関する権限を明確にするとともに、土木工事等に届出、必要な指示等の文化庁艮官の権限を委任することを含め、発掘調査の迅速化について検討することが必要と認められる。

A 文化庁では、埋蔵文化財の事務処理の迅速化を図るため、「埋蔵文化財関係の事務処理の迅速適正化について」(昭和56年2月7日付け庁保記第11号文化庁長官通知)等により土木工事等の文化庁長官への届出又は通知を受けて指示又は勧告(土木工事等の計画の一部変更による遺構の全部又は一部の現状保存に係るものを除く。)を行う等の事務は、都道府県教委で処理することとし、文化庁へは3か月ごとにまとめて事後的に書類を送付することとしている。また、発掘調査の届出に係る事務についても、同様に取り扱われている。
 上記の通達等により都道府県教委が処理したものについて、調査した都道府県教委では、文化庁から事後的に修正や指導を受けた例はないとしていることから、文化財保護法上もこれらの権限を都道府県教委に委任することを含め、都道府県教委の責任を一層明確化することについて検討する余地があると認められる。

B 調査した都道府県における発掘調査の実施件数をみると、市町村教委が分担しているものが88.9パーセントを占めており、かつ、民間事業者の土木工事等に係る発掘調査については、大部分が市町村教委が分担し、実施件数が多いことから、市町村教委の方が業務量が過大な傾向がみられる。
 また、 1)都道府県教委が分担している発掘調査は、国及び都道府県の事業に係るものが大部分であり、規模が大きく広域にわたっているものの実施件数が少ないこと、 2)市町村教委の発掘調査体制上の問題から発掘調査の完了までに、前述のとおり長期間を要している事例が多いことから、都道府県教委と市町村教委との間において、発掘調査担当の専門職員を相互に派遣したり、市町村又は都道府県の枠を超えて広域的に相互派遣する仕組みを導入するとともに、発掘調査の分担を必要に応じて見直すことが必要と認められる。

C 現在、発掘調査については、その精度及び質を確保する観点から、民間会社がその実施主体となることは望ましくないとされている。
 しかし、 1)前述のとおり 市町村教委の体制上の問題から発掘調査が長期化している例もあり、 2)調査した都道府県教委及び市町村教委の中には、事実上民間会社に発掘調査を委託しているものがあるほか、必要の都度民間会社の社員も参加させて遺跡調査会を設立し、発掘調査を行っているものもあるが、これらについては、特段の支障は生じておらず、 3)民間会社の中には、考古学に関する専門的知識を有している職員を多数配置しているものがあり、発掘調査に迅速に対応できるなどのメリットもある。このようなことから、発掘調査を機動的かつ強力的に行うためには、発掘調査に民間会社を活用することについて検討する余地があると認められる。

D 周知の埋蔵文化財包蔵地において行われる土木工事等の届出から発掘調査の完了までの標準処理期間は、都道府県教委及び市町村教委の事務処理体制が十分確立していないこともあり定められていない。
 しかし、民間事業者が行う宅地開発事業や住宅建設事業等については、土木工事等の届出から発掘調査の完了までの期間の長短が採算面に直結しており、調査したこれら事業の中にも発掘調査に係る事務処理の遅れにより共同住宅の建設を中止したものがみられる等事務処理の長短が民間事業者の事業に相当な影響を及ぼしている例がある。一方、遺跡の種類、埋蔵状況等に応じた標準的な発掘調査期間等の算定に関する方針を作成することは可能でありまた、都道府県教委及び市町村教委の事務処理体制又は応援体制に払じた事務処理期間の算定に関する方針を作成することは可能と考えられる。
 このようなことから、都道府県教委及び市町村教委の発掘調査体制の整備を促進するとともに、周知の埋蔵文化財包蔵地における土木工事等の届出から発掘調査の完了までの標準処理期間の算定に関するマニュアルを事務処理の促進を図る観点からも作成すべきものと認められる。


 したがって、文部省は、埋蔵文化財の発掘調査に係る事務処理の迅速化を図るため、次の措置を横ずる必要がある。
 @ 埋蔵文化財に関する政令指走都市の教委の権限を明確にするとともに、文化財保護法に基づく土木工事等の届出及び通知、これら届出又は通知に対する指示又は勧告の権限の全部又は一部を文化庁長官から都道府県教委及び政令指定都市の教委に委任することを含め、その分担の在り方を検討すること。
 A 都道府県教委に村し、市町村教委との発掘調査に係る分担を必要に応じ見直すよう指導すること。また、都道府県教委と市町村教委との間において、発掘調査担当の専門職員を相互に派遣したり、市町村又は都道府県の枠を超えて広域的に相互派遣する仕組みを導入するよう検討すること。
 B 埋蔵文化財の発掘調査に民間会社を活周することについて検討すること。
 C 都道府県教委及げ市町村教委の発掘調査体制の整備を促進するとともに、周知の埋蔵文化財包蔵地における土木工車等の届出から発掘調査の完了までの標準処理期間の算定に関するマニュアルを作成すること。


イ 事務の簡素化・適正化

 近年、埋蔵文化財に係る届出等の件数が増加してきていることもあり埋蔵文化財の発掘調査に係る事務処理の簡素化が求められている。また、発掘調査は、埋蔵文化財の適正な保護のために行われるものではあるが、結果として事業者に経済的負担を負わせるものであることから、文化財保護法第57条の2又は第57条の3に基づく文化庁長官による発掘調査の指示又は勧告は、適正に行われることが重要である。
 さらに、埋蔵文化財の保護を適切に行うためには、地方公共団体において、文化財保護担当部局と開発担当部局等とが密接な連絡調整を行うことが重要となっている。
 今回18都道府県教委及び46市町村教委における埋蔵文化財に係る事務処理状況及び開発担当部局等との連接状況について調査した結果、以下のような状況がみられた。

 @ 文化財保護法第98条の2第1項に基づき、地方公共団体は埋成文化材の発掘調査を実施することができることとされており この場合、同法第57条第1項に基づく発掘調査の届出は不要であるが、文化庁は、「文化財保護法の一部を改正する法律等の施行について」(昭和50年9月30日付け庁保管第191号文化庁次長通達)により、発掘調査の実施を事前に把握するとの趣旨から、地方公共団体に対し、同法57条第1項に基づく発掘調査の届出に準ずる方式により発掘調査の着手の30日前までに文化庁長官へ通知するよう求めている。しかし、調査した都道府県教委及び市町村教委がこの通知を行ったもののうち394件を抽出してみると、300件(76.1パーセント)が発掘調査の着手前30日未満又は発掘調査の着手後に通知しているが、文化庁は、特段その改善について指導をしていない。また、事後的に3か月分の書類をまとめて送付している都道府県教委もみられるが、当該教委に対し、文化庁は個別に了解を与えている。
 このようなことから、地方公共団体に村し発掘調査の着手の30日前までに文化庁長官へ通知させる必要はなく、事後報告で対応できるものと認められる。

 A 文化庁長官による発掘調査の指示又は勧告を行う場合の基準として、文化庁は、「埋蔵文化財の保護と発掘調査の円滑化について」(平成5年11月19日付け庁保記第75号文化庁次長通知)等により、 1)工事による掘削が埋蔵文化財に及ぶ場合、 2)恒久的な建築物、道路その他の工作物を設置する場合、 3)盛土、一時的な工作物の設置等で、それが埋蔵文化財に影響を及ぼすおそれのある場合を挙げている。これらのうち3)については、どのような場合に発掘調査が必要となるかが事業者に理解し難いものとなっており、また、調査した都道府県の宮・民の67開発事業者のうち、14事業者が発掘調査が必要となる場合の基準の明確化を要望している。文化庁では、上記3)の場合に発掘調査が必要か否かについては、各都道府県教委のブロック単位の連絡協議組織(以下「地方ブロック」という。)ごとに、埋蔵文化財の種類、内容、現況等に対応した一定の標準を設定させ、これに準拠して具体的な遺跡等の状況を把握の上、判断するよう都道府県教委に対し指導している。しかし、このような標準は、平成6年10月の当庁の調査時点において、1地方プロック(関東甲信越静ブロック文化・文化財行政主管課長会議)で内部的に設定されているのみで他の地方ブロックでは検討中となっている。

 B 埋蔵文化財の保護と開発事業等との調整を適切に行うためには、都道府県又は市町付の内部において文化財保護担当部局と開発担当部局等との連絡調整ルールが設けられていることが必要である。
 文化庁は、上記「埋蔵文化財の保護と発掘調査の円滑化について」により 都道府県教委に対し、開発関係部局等との間において定期的な通路調整の機会を設けるなど連携を常にするよう指導している。
 調査した都道府県及び市町村において、埋蔵文化財の保護との調整を妥する代表的な例である公共事業の実施、都市計画法(昭和43年法律第100号)に基づく開発許可、農地法(昭和27年法律第229号)に基づく農地転用等の許可及び建築基準法に基づく建築確認について、それぞれの担当部局と文化財保護担当部局との間における連携状況をみると、次のとおりである。
 1 都道府県においては、公共事業の実施については、都道府県教委が前年度に開発担当部局等から事業計画を把握する等の方法により連絡調整ルールが確立しているが、開発許可、農地転用等の許可及び建築確認については、連絡調整ルールが十分確立していないものがそれぞれ7都道府県、11都道府県、16都道府県みられ、その理由として、市町村において連携がとられていることを挙げている。
 2 市町村においては、定期的な連絡調整ルールが設けられていないものが、公共事業の実施については10市町村(21.7パーセント)、都市計画法の開発許可についてほ4市町村(8.7パーセント)、農地転用等の許可については29町村(63.0パーセント)、建築確認については20市町村(43.5パーセント)みられる。
 3 このようなことから、調査した都道府県及び市町村においては、文化財保護担当部局と開発担当部局等との間における連結調整が十分でないために、周知の埋蔵文化財包蔵地において無届で埋蔵文化財の破壊につなかる開発が行われた例がみられる。


 したがって、文部省は、埋蔵文化財の保護の徹底及び事務の簡素化・適正化を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。
 @ 地方公共団体が文化財保護法第98条の2第1項に基づく発掘調査を行う際の通達に基づく文化庁長官への事前通知は、事後報告に改めること。
 A 地方ブロックごとの発掘調査の実施に係る標準を早急に設定するよう都道府県教委を指導すること。
 B 都道府県教委に対し、また、都道府県教委を通じ市町村教委に対し、開発担当部局等との一層の連携を図るよう指導の徹底を図ること。

ウ 発掘調査に係る費用負担の明確化

 土木工事等に伴う埋蔵文化財の発掘調査は、多くの場合、当該土木工事等を行う民間事業者すなわち原因者がその費用を負担(以下「原因者負担」という。)している。この原因者負担については、文化財保護法上明確な根拠規定はなく、文化庁長官又は都道府県教委による発掘調査を行うべき旨の指示又は指導に従う結果として、民間事業者の費用負担により行われるものとなっている。具体的には、発掘調査の指示又は指導を受けた民間事業者はすべて、発掘調査の専門的知識を有する都道府県教委、市町村教委、財団法人等に発掘調査を委託し、その契約に基づいて費用を負担する ことになる。
 一方、国の機関等が周知の埋蔵文化財包蔵地において土木工事等を行う場合も、文化庁長官又は都道府県教委の発掘調査を行うべき旨の勧告又は指導に従う結果として費用負担が行われているが、この場合の費用負担については、文化庁と関係省庁又は関係特殊法人との間にそれぞれ覚書が交換されている場合が多い。
 これらの覚書においては、発掘調査は都道府県教委等に委託して行うこと、発掘調査を委託する場合の費用(発掘作業費、報告書作成費等)は、関係省庁等が負担することが明記されている。
 なお、個人住宅の建設等に伴う発掘調査については、「埋蔵文化財緊急調査費国庫補助要項」(昭和54年5月1日文化庁長官裁定)に基づき補助金(国50パーセント、地方公共団体50パーセント)が交付され、個人負担は求められていない。
 平成5年度における発掘調査費用の負担状況をみると、総額は1,134億円であり、このうち原因者負担分が1,087億円(95.9パーセント)、公費負担分が47億円(4.1パーセント)となっている。さらに、原因者負担分の負担者別の内訳をみると、都道府県が最も多く317億円(20.8パーセント)、次いで公団・公社等が222億円(19.6パーセント)、国が209億円(18.4パーセント)であり、民間事業者等は172億円(15.2パーセント)となっている。
 今回、18都道府県及び46市町村における発掘調査費用の負担状況について調査した結果、次のような状況がみられた。

 @ 調査した都道府県及び市町村における民間事業者による土木工事等に伴い行われた発掘調査のうち、平成6年4月から9月までの聞に発掘調査費用が支払われたもの136件を抽出してみると、1件当たりの平均発掘調査費用は、1,122万円となっており中には民間事業者にとって相当な負担となっている例がみられる。
 文化庁は、民間事業者が行う土木工事等に伴う発掘調査晋用の原因者負担は定着してきているとしているが、調査した都道府県及び市町村のうち11都道府県及び36市町村(全体の73.4パーセント)では、原因者負担の説明に苦慮する場合があるとして、その法的根拠や費用負担の範囲等を文化庁が明確に示すよう希望している。
 また、抽出調査した28民間事業者のうち、原因者負担の根拠や範囲を明確に説明するよう求めているものが5事業者ある。
 さらに、調査した市町村においては、民間事業者が費用負担に応じていない例もみられる。
 このように原因者負担については、民間事業者側、文化財保護行政側の双方からその根拠や範囲を明碓に示すよう求める意見がある。
 なお、発掘調査費用の原因者負担をめぐり、昭和54年に府中市において訴訟が提起されてり、原告は、原因者負担により発掘調査を行わせる行政指導は違法であるなどと主張したが、58年の東京地方裁判所の判決で棄却され、また、60年の東京高等裁判所の判決でも、発掘調査を指示することは埋蔵文化財保護の見地からみて適切な措置であり、そのために発掘者がある程度の経済的負担(財産的出損)を負う結果になるとしても、それが法の趣旨を逸脱した不当に過大なものでない以上、発掘者において受忍すべきものであるとして、原告の訴えは棄却されている。
 また、文化庁では、昭和59年11月30日付けの事務連格により、民間事業、公共事業を問わず、遺跡の範囲等を碓認するための試掘調査については文化財保護担当部局の経費で実施するのが適当であるとしているが、調査した都道府県及び市町村のうち10都道府県及び22市町村において、試掘調査について原因者が何らかの負担をしている実態がみられる。

 A 発掘調査の費用については、多くの場合、原因者である事業者が負担しており、事業者の側からは発掘調査費用の積算基準の明確化が求められている。
 文化庁は、前述の文化庁次長通知「埋蔵文化財の保護と発掘調査の円滑化について」により、地方ブロックごとに標準的な発掘調査経費の積算基礎を定めてこれに準拠するように努めるよう都道府県教委を指導している。この地方ブロックごとの標準的な積算基礎は、平成6年10月の当庁の調査時点において、北海道・東北ブロック、関東甲信越静ブロック及び北陸ブロックの3地方ブロックで策定されているが、これらの地方ブロックにおいても、歩掛かり(1人日当たりの作業量)に幅があること、同一地方ブロック内とはいえ地層・地質に差があること等の理由から、これらの積算基礎をそのままの形では利用していない都道府県もみられる。
 また、文化庁は、個人住宅の建設等に伴う発掘調査について国庫補助を行っているが、その対象を個人に限定している都道府県がある一方、個人以外に零細事業者をも加えている都道府県もある。
 以上のとおり、発掘調査費用の負担については、その根拠や原因者に負担を求める費用の範囲について不明確となっている状況がみられる。
 この原因は、文化財保護法上、発掘調査の費用負担に開する規定が整備きれていないことにもよるが、文化庁においても、都道府県教委及び市町村教委に対し、原因者に負担を求める根拠、範囲等を明確に示していないことによると認められる。


 したがって、文部省は、次の措置を講ずる必要がある。
 @ 都道府県教委に村し、また、都道府県教委を通じ市町村教委に村し、周知の埋蔵文化財包蔵地において、民間事業者が行う土木工事等に伴う発掘調査の費用について、原因者に負担を求めることの根拠、その範囲及びその考え方を明確に示すこと。
 A 発掘調査の費用について、都道府県教委に対し、地方ブロックごとに、適切な積算基礎を策定するよう指導すること。また、個人住宅の建設等に伴う発掘調査についての国庫補助の対象となる範囲を明確化すること。


エ 出土文化財の取扱いの見直し

 近年、国土の急速な開発に伴い埋蔵文化財の発掘調査量が急増する一方、出土した文化財(以下「出土文化財」という。)も膨大なものとなってきている。文化庁では、これに対処するため、「埋蔵文化財調査センター建設費国庫補助要項」(昭和54年5月1日文化庁長官裁定)及び「出土文化財管理センター建設費国庫補助要項」(平成4年5月27日文化庁長官裁定)に基づき、地方公共団体に対し、埋蔵文化財の調査を行う埋蔵文化財調査センター及び出土文化財の整理、収蔵等を行う出土文化財管理センターの整備に要する経費を補助している。
 発掘調査の結果発見された出土品については、遺失物法(明治32年法律第87号)、文化財保護法等の規定により、警察署長への埋蔵物としての差し出し、差し出された埋蔵物が文化財と認められるときの警察署良から文化庁長官への提出、文化財であるかどうかの文化庁長官の鑑査(この権限は、都道府県教委に委任されている。)等を経て鑑査の結果文化財と認められたもののうち所有者が判明しないものについては、その所有権は、同壊に帰属することとされている。同席に帰属した文化財については、その効用等からみて国が保有する必要のあるもの以外は、その発見者、その発見された土地の所有者又は発見地を管轄する地方公共団体に譲与等をすることができることとされている。
 また、発掘調査の成果である出土文化財については、適切に保管すること、研究資料等として活用することが求められている。
 今回、18都道府県教委及び46市町村教委における出土文化財の保管・活用状況等を調査した結果、以下のような状況がみられた。

(ア) 出土文化財の保管・活用

 @ 調査した都道府県教委における鑑査の結果文化財と認められた件数と都道府県教委が発掘調査により発見した文化財(この場合は、鑑査の必要がない。)の件数との合計は、平成4年度及び5年度において、それぞれ1,840件、2,109件あり これらのうち所有者が判明したものはなく、その所有権は国庫に帰属している。国庫に帰属した出土文化財で国において保有されるものは毎年1件ないし3件程度であり、また、文化財保護法第64条に基づき譲与等の手続を経て地方公共団体への所属とされた一部のものを含め、出土文化財の大部分は地方公共団体において保管されている。地方公共団体において保管されることとなった出土文化財は、調査した18都道府県では、平成4年度に1,836件、5年度に2,105件となっている。
 現在、地方公共団体においては、国が保有することとなったものを除き、出土した文化財をすべて保管することとしている。その結果、文化財の保管量は年々増え続け、調査した都道府県及び市町村において平成5年度末現在で保管しているコンテナ数は96万5,907箱(サイズは地方公共団休により異なる。)に上っている。
 なお、全国ペースでみると、平成4年度及び5年度に国庫に帰属することとなった出土文化財は、それぞれ4,016件、4,462件であるが、同が保有しているものは、それぞれ3件、2件となっている。また、出土文化財財の保管量は、文化庁が行った昭和61年2月の調査によれば、都道府県分と市町村分とを合わせ、184万箱となっている。
 このように増大する出土文化財の保管について、調査した都道府県教委及び市町村教委の中には、次のとおり、保管スペースの確保に苦慮している状況にあるものがみられ、また、研究資料等として活用きれている出土文化財は少ない。
 1 公立博物館のほか、小学校の空き教室等4施設で保管しているが、すべて満杯となっていることから、早急に保管施設を確保する必要があるが、保管スペースの確保に財政当局の理解が得られず、その対応に苦慮しており、また、研究資料等として活用されている出土文化財が少ないもの
 2 埋蔵文化財調査センターの収蔵庫に9,500箱を収蔵しているが、保管スペースに余裕がなくなり、通路にも置いている状況であり、収蔵できない出土文化財は、同センター周辺及び発掘現場に袋に入れて野積みし、ビニールシートで覆って保管しているもの
 3 平成5年度に収蔵庫を整備したが、出土文化財約730箱で満杯となっており、今後の保管場所の確保の見通しは立っておらず、また、展示施設がないこと等から、1回貸出を行ったほかは出土文化財が全く活用されていないもの
 4 昭和52年度から53年度にかけて国庫補助を受けて埋蔵文化財調査センターを建設したが、現在保管スペースが満杯となっていることから、発掘調査を行った高架下の土地に収蔵庫を作って保管しているが、これも満杯となっている上、同センター本館の廊下にも600箱以上を保管しており、また、一部を除き出土文化財の研究資料等としての検索・活用が困難な状況となっているもの
 5 昭和59年に建設した文化財整理室だけでは保管スペースが足りず、平成4年度に単独事業で建設した収蔵庫も満杯となり、6年度には民間の倉庫を年間322万6,000円で賃借して収蔵しているが、これもスペースの約9割は既に埋まり、今後の保管場所の確保に苦慮しているもの
 6 公立歴史資料棺のほか、3収蔵庫及び13棟のプレハブを設置して保管しているが、すべて満杯となっているため、瓦等の出土文化財を野積みしており、また、出土文化財の多くは、外部の人からの利用の要求に即応することは困難な状況にあるもの
 文化庁は、このような状況に対し、平成6年度末現在で、46埋蔵文化財調査センター及び10出土文化財管理センターの建設費について補助してきているが、早晩これらの施設も満杯になることが予測されることから、出土文化財の適切な保管・活用を図る観点から、地方公共団体が保管している出土文化財について、その状態や活用の可能性等に応じ保管方法の効率化を周る方向で、その取扱基準を策定する余地があると考えられる。

A 開発事業に伴い実地される発掘調査は現状保存できない埋蔵文化財の記録保存のために採られる措置であることから、発掘調査の完了後に発掘調査報告書を作成することが必要となっている。
 調査した都道府県教委において平成3年度に発掘調査が完了した329件について、発掘調査報告書の作成状況をみると、作成済みのものは159件(48.3パーセント)であり、半数以上が作成されていない。また、作成されていないものの中には、発掘調査が次年度以降も継続し、すべてが終了した後に発掘調査報告書を作成する予定であるとしているものもみられるが、発掘調査の実施を優先きせているなどにより発掘調査報告書の作成の目途を有していないものもみられる。

(イ) 出土品の鑑査

 文化庁長官又は都道府県教委が発掘調査の結果発見した出土品については、文化財保護法第59条第1項等に基づき、警察署長への埋蔵物としての差し出しは必要とされず、警察署長への通知で足り、また、文化財であるかどうかの鑑査も必要とされていない。
 一方、市町村教委が発掘調査の結果発見した出土品については、警察署長への埋蔵物としての差し出し及び都道府県教委による鑑査が必要とされているが、調査した都道府県教委においては、鑑査の結果文化財でないとされた例はなく、また、その鑑査は、警察署長から提出された文書のみで行われ、鑑定するなどの方法では行われておらず、形骸化している。
 したがって、文部省は、次の措置を講ずる必要がある。
 @ 出土文化財について、保管活用の状況を調査し、その状態や活用の可能性等に応じ保管方法の効率化を図る方向で、その取扱基準を策定すること。
 A 都道府県教委に対し、また、都道府県教委を通じ市町村教委に対し、発掘調査報告書の作成を徹底するよう指導すること。
 B 市町村教委の発掘調査により発見された出土品の鑑査については、事務処理の簡素化を図る方向で、その在り方を見直すこと。



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